変化の激しい激動の時代に、中小企業が成長を続けていくためには何が必要なのか。エコノミストの崔 真淑氏は、「IT活用による生産性の向上、ガバナンスを効かせた経営の透明性の確保、インセンティブ設計の3つが必要になる」と語る。

GDPのマイナス成長やパンデミックが経済にもたらす影響とは

―― GDPがマイナスに転じ、コロナウイルスの広がりが経済に与える影響も大きくなっています。こうした中、現在の経済状況をどのように認識していらっしゃいますか。

崔氏 「GDPのマイナス6.3%成長」を数字だけで見ると「怖い」と感じるかもしれませんし、「増税後なのでその影響が大きい」と感じるかもしれません。しかし、今の日本経済を考えると、マイナス成長の原因が増税であるとは言い切れません。当初は1.8%成長と発表されていた7~9月のGDPが、2月17日に0.5%成長だったと下方修正されたからです。

下方修正されたということは「増税前の駆け込み需要がなかった」と捉えることができます。もし駆け込み需要があれば、GDPは2~3%成長します。しかし実際は0.5%しか成長せず、その後にマイナス6.3%成長したということは「そもそも日本経済がかなり弱い状況で、消費増税が追い打ちをかけてしまった」可能性があります。

GDPは内需、外需、公共投資の大きく3つで構成されます。この中で何が弱かったのかを分析してみると、まず内需は増税が原因ではなく「そもそも個人の収入が増えていないため、消費が伸びなかった」ことが問題です。外需に関しては、米中の貿易摩擦が影響しています。唯一、わずかながら良かったのは公共投資です。この状況をひと言で例えると「公共政策1本足打法経済」といえます。

―― 今後、日本の経済状況は、どのようになるとお考えでしょうか。

崔氏 短期的に見ると、相変わらずマイナス成長が続くと予想します。1~3月期に公共投資が健闘し、米中間の貿易摩擦も少なくなったとしても、新型コロナウイルスのまん延が、内需にも外需にも悪影響を及ぼしているためです。世界的な定義では、GDPが2四半期マイナス成長になると「景気の悪化」という認識なので、1月~3月期は「日本の景気が失速するか、しないか」の瀬戸際といえます。

一方、ポジティブなニュースとしては、テレワーク関連のIT投資が期待できることです。テレワークは、人材の最適配置やワークライフバランス、働き方改革など、一人一人にフィットした、生産性を改善する満足度の高い働き方を実現するきっかけになります。

日本の中小企業は、諸外国に比べて大企業からの受託業務が多いので、大企業の業績が下がると、それに連鎖して中小企業の業績も悪くなります。このピンチをチャンスに変えるためには、クラウドなどの少ない投資で生産性を最大限改善できる、自分たちに合ったITの活用が必要です。

―― 景気の悪化といえば先日、日経平均株価が一時1000円以上下落しました。

崔氏 株式市場には、面白い傾向があります。株式市場は「少し未来の経済を反映する」という傾向です。そのため業績が悪くても、株価が上がることがあります。例えば「業績は今が“底”だから、後は上がるしかない」と投資家や市場が判断したときなどです。現在、インバウンドや製造業などは、安値更新の状況ですが、テレワーク関連株は高値更新を続けているのは好材料です。

2020年はITを活用し「いかに生産性を向上させ、働き方を変えていくか」が注目されています。その市場に期待している人は、少なくありません。

5GやIoTの普及促進が日本の中小企業にも良い影響を

―― 中小企業(特に従業員100人未満)の経営者にとって、今の経済の不透明さは頭を悩ませる状況だと思います。中小企業のビジネス状況をどう判断されていますか。

崔氏 確かに経済は不透明ですが、明るいニュースはあります。2020年3月よりサービスの提供が開始される5G(第5世代移動通信システム)です。5Gは高速通信が注目されがちですが、私は低遅延、大容量の通信網が整備されることが重要だと考えています。この通信網を生かしたIoT(モノのインターネット)サービスの拡大が市場で期待されています。日本政府も5GやIoTの普及促進を目的に「5G 設備投資企業支援法案」を閣議決定しています。

―― 5GやIoTなどのIT活用は、中小企業にどのような影響をもたらすのでしょうか。

崔氏 IT活用というと、自動化や生産性向上ばかりが注目されがちです。ですが、中小企業は生産性を向上するだけでなく、AI活用やデジタル化により、従業員のモチベーションを上げる取り組みに目を向けるべきです。

中小企業の多くは人材の最適配置や新規事業の計画を数字で判断するのではなく、これまでの勘や経験に基づいて判断する傾向があります。特に家族経営の中小企業では、好き嫌い人事で従業員のモチベーションを低下させてしまうことがあります。

―― 同じ中小企業でも、家族経営や老舗の中小企業、スタートアップなどでビジネス状況に違いはありますか。

崔氏 違うと思います。スタートアップはレガシー資産がないので、新しい戦略をどんどん推進できます。ベンチャーキャピタル(VC)というプロの投資家のアドバイスを聞くことができるメリットもあります。一方で、VCを含めたいろいろなステークホルダーが関わっているため、しがらみもあります。

家族経営や老舗の中小企業は、経営者に権力が集中しているので、外部のしがらみなく経営戦略を変更できますが、ガバナンスが効かなくなる危険性もあります。そこで、ガバナンスを効かせるために、あえて家族以外の取締役を置くことが必要です。これにより、経営の透明性を市場にアピールできます。

中小企業の経営者がやるべきはインセンティブ設計

―― 中小企業が抱える課題を解決するにはどうすればよいでしょうか。

崔氏 今、中小企業の経営者がやるべきなのは、「IT活用による生産性の向上」「ガバナンスを効かせた経営の透明性の確保」に加え、「インセンティブ設計」です。インセンティブ設計は、給料を上げるだけではない、従業員のモチベーション向上を考えることが必要です。統計的にも、給料が上がることだけでなく、やりがいや誰かの役に立っていることが従業員のモチベーションにつながるという結果が出ています。

HR(Human Resource)テックのWebサービスを提供するUniposの取り組み(注)のように「誰かの役に立っていることを可視化する」ことが好循環につながります。ビジネス環境の変化が激しい現在、多くの経営者が「いよいよITを活用しないとまずい」と考えはじめています。ですから、2020年はこれまでの「膿」を出し切り、来期以降にV字回復するためのITを活用したスリム化の年、生産性を高める年にすべきです。

※注:「困ったときに助けてもらったら、その相手にありがとうポイントを送ることができ、そのポイント数に応じた手当が給料に追加される」という取り組み。

―― IT活用といえば、中小企業では古いPCをずっと使い続けている印象があります。

崔氏 中小企業には、PCを新しくすることで何が変わるのか理解していない経営者がまだまだ多いと思います。しかし成功している中小企業は、「PCを新しくするとデータ分析が速くなり、従業員のストレスもなくなる」ことを理解しています。

日本経済が右肩上がりで成長していれば、データの細かい分析は不要ですが、現在のような横ばいの経済状況では、いかにムダを省くかが重要です。そのためには「パートナーのアドバイスを受けてITを活用した自動化、生産性の向上を実現させることが不可欠ということに気が付いた」という状況です。

―― 多くの中小企業では、テレワークなどの災害対策や疾病対策に関するIT投資が進んでいません。こうした中小企業にどのようにIT活用のメリットを理解してもらえばよいでしょうか。

崔氏 難しい課題ですが、「IT活用の効果を見える化する」方法が効果的だと思います。私は、現在顧問をしている会社に「ITの活用で、ビジネスをより実験的にする」という提案をしています。具体的には、2019年にノーベル経済学賞を受賞したランダム化比較試験(RCT)と呼ばれる手法を使い、ITを活用する前と後での効果の因果関係を見える化する取り組みを推進しています。

例えば、テレワークを導入した部門と、これまでのやり方の部門で比較をして、その効果と因果関係を見える化すれば、経営者も認めざるを得ません。ある日本の電力会社では、特定の家庭に新しい料金設定をして、これまでの料金設定の家庭と比較することで、節電効果につながるかどうかを実験しています。このようなITを活用した最新の取り組みについてもパートナーから有効なノウハウを得ることができるでしょう。

―― 最後に中小企業の経営者に対してメッセージをお願いします。

崔氏 ITは生産性を向上するだけのツールではなく、従業員同士をつなぎ、従業員の成果を見える化するツールでもあります。IT活用で、従業員同士が緩いつながりを持つことで、生産性の向上だけでなく、従業員のモチベーションのアップにもつながります。

もしIT活用で困ったときには、デル・テクノロジーズのような経験や実績、ノウハウを持っている国内外の企業に相談することが有効です。もちろん、会社の名前ありきでパートナーを探すのではなく、担当者によって大きく違ってくることを理解しておくことも必要です。まずは担当者に会ってみることが重要です。何でも相談できる関係を築けるかどうかが、今後の企業経営にとって重要なポイントになります。

Original
Source

アイティメディア営業企画
制作:TechTargetジャパン編集部
この記事はTechTargetジャパン(https://techtarget.itmedia.co.jp/)に2020年3月に掲載された
コンテンツを転載したものです。
https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2008/03/news08.html

トップページに戻る 記事一覧を見る