新型コロナウイルス感染予防対策として政府はテレワークの実施を推奨しており、企業は適応を求められている。創業から現在まで完全テレワークを実践するキャスターの石倉氏に、テレワークの注意点など話を聞いた。

リモート作業専門のアウトソーシングサービスを提供

―― 新型コロナウイルスの感染拡大で、テレワークへの取り組みが急務となっています。完全テレワークを実践されているキャスターのビジネスについてまず教えてください。

石倉氏 われわれの事業は3つの領域に分かれています。まず主力のBPO(アウトソーシング)です。2014年の創業時から続くオンラインアシスタント「CASTER BIZ」は、経理や採用、労務に特化したサービスにも拡大しています。2つ目は労働者派遣の事業です。これも100%テレワークを前提にした派遣業務を受注し、スタッフを在宅のまま派遣しています。そして3つ目が、2019年11月に開始した「Caster Anywhere」というテレワークのコンサルティングサービスです。テレワークを始める際のツールの紹介、公的な助成金の申請の仕方などの相談に答えるサービスで、現在、問い合わせが特に増えています。

各サービスは、堅調に推移しています。もともと全員がリモートで働いていたので、新型コロナウイルスの影響は全くありません。休校や休園などの影響で、自宅に子どもがいるために仕事時間が制限されるスタッフはいますが、業務時間や作業量を調整しながら稼働率が下がらないようにしています。

在宅だから実現した品質

―― キャスターのサービスは、既存の業務請負や派遣事業者と比べてどのような点が強みなのでしょうか。

石倉氏 既存のアウトソーサー(受託先企業)は、スタッフを企業に派遣することを前提としています。われわれはその逆で、基本的にスタッフは取引先企業に行きません。完全にリモートで業務を進めるオンラインアシスタントのサービスを提供します。うまくいっているポイントは、アウトソーシングに慣れていない企業でも業務を依頼しやすい仕組みを提供していることです。アウトソーシングをするには発注元が業務の棚卸しをする必要があります。しかし、中小企業はその作業をする時間もノウハウもありません。

このサービスは専任の担当者が受託先企業のチャットに参加します。厳密に業務の切り出しができていなかったとしても、対話形式で気楽に仕事を依頼できます。

またスタッフも、顧客との窓口を担当する部門と業務を担う部門の2層に分かれています。われわれは、依頼された業務内容とスタッフのスキル、業務履歴をマッチングさせるシステムを用意しており、リモートで働くスタッフが複数の企業の業務を効率良くこなせるようにしています。テレワークだからこそ実現できた仕組みだと言えるでしょう。

キャスターが完全テレワークにこだわる理由

―― キャスターが創業時から完全テレワークを実践していたのはなぜでしょうか。きっかけを教えてください。

石倉氏 キャスターが完全テレワークにこだわっている理由は、中川祥太 代表取締役の思いがあります。彼は起業前、クラウドソーシングで業務を発注する立場にいた経験があります。そこで目にしたのは、東京の企業に常駐するなら1カ月で30万円の報酬を得られる人が、地方に移住してテレワークを始めた途端、同じスキルをその企業に提供したとしてもなぜか極端に報酬が少なくなる現実でした。

「オフィスに来られない人が普通に働くことができない社会はおかしい」という問題意識から立ち上げたのがキャスターという会社です。ですから、2014年の創業時点から「出勤をする」という選択肢がないのです。

―― 現在、テレワークに取り組んでいる中小企業の中には、システムやコミュニケーションで苦労している企業も多いと聞きます。キャスターが完全テレワーク環境で成長してきた理由は何でしょうか。

石倉氏 私も幾つか企業を立ち上げましたが、テレワークに移行したから問題が起きるということは一つもありません。例えばスタートアップでは資金や人材などのリソースの課題はありますが、それは企業規模が小さいからであって、従業員がリモートで働いていることとは無関係です。むしろ場所に縛られない組織であることが、意思決定をどこでも可能にし、事業を素早く進められるメリットになるのです。

テレワークは3つの段階があると思います。

最初の段階は、今回の新型コロナウイルスや大災害などの緊急時に強制的なテレワークを迫られる状態です。この段階は、業務を一部止めてでもテレワークの実施が優先されます。次の段階は、事業、業務内容によってテレワークができない環境において、出社する人としない人に分かれる段階です。そして最後の段階が、当社のように事業をテレワークで完全に進められる状態です。

現在、多くの企業が最初の段階で、徐々に2つ目の段階に入っていかざるを得ない状況になっている印象です。

最初の段階は、会社のデータが持ち出せないとか、自宅にPCがない、またはインターネット回線がないというテレワーク以前の問題が出てきます。2つ目の段階は、出社する人としない人のコミュニケーションをどうするかという問題です。押印や対面形式の会議の実施、社内書類の利用のために出社する必要がある組織は、業務プロセスの見直しが必要でしょう。段階ごとに出てくる問題を解決することで、中小企業も完全テレワークを実現できる組織に生まれ変わることができます。

テレワークへの移行ができない理由

―― テレワークへの移行がうまくできない企業、移行できる企業の違いとは何でしょうか。

石倉氏 いろいろな企業の人とお会いしますが、スムーズにテレワークに移行できている企業とそうでない企業があります。「テレワークができない」と言っている企業の話を聞いていくと、もともと問題があって、それを運用でカバーしていた。ところが、テレワークを適用させる段階になって露呈したケースを見掛けます。

例えばテレワークになって従業員間のコミュニケーションが取れなくなったという会社は、もともとコミュニケーションがうまく取れていなかったのだと思います。それはコミュニケーション能力の問題であって、場所の問題ではありません。

またテレワークだと会議ができないという会社は、情報共有の手段を会議に限定してしまっていることが問題です。そういう意味では、リモートであぶり出されたことが、組織の問題点を見直す良いチャンスになるかもしれません。

リモート前提の働き方で社会は一変する

―― 今後、中小企業の働き方はどう変化するでしょうか。

石倉氏 専門家の意見から、新型コロナウイルスの問題はこれから長期にわたるということがはっきりしてきました。ワクチンの開発には長い期間が必要ですし、完全に終息する見通しも立っていません。終息するまでの間、人が会わなくても業務を進められる態勢を取らなければ企業は生き残れないでしょう。

もしいま、小さな事務所に全従業員が集まる中小企業で誰かが感染したら、全員が濃厚接触者となって自宅待機です。会社の業務は止まってしまいます。そうなる前に、このタイミングで会社として働き方を変える、つまりできる限り従業員をテレワークできるようにするしかありません。

―― 必要性を感じていても、何から始めるべきか分からない経営者も少なくないと思います。

石倉氏 テレワークを始められる環境は既に世の中にあります。キャスターも特殊なシステムを導入しているわけではありません。市販されているハードウェアとソフトウェアの組み合わせで、完全テレワークを実現しています。

とはいえ、テレワーク環境を実現させるためのハードウェア、ソフトウェア、インフラを同時に準備する必要があるので、分からない場合は中小企業のITに精通したアドバイザーに相談して一気に整えるべきでしょう。実はそれほど大掛かりな投資は必要ありません。また最初から100%を目指さなくていいのです。重要なのは、すぐに始めることです。

テレワークの注意点は「過集中」

―― テレワークを始めた人からは、仕事とプライベートのオン/オフの切り替えが難しいという声も聞きます。テレワークにおける働き方についての注意点を教えてください。

石倉氏 テレワークは長時間集中し過ぎてしまう「過集中」の問題に注意すべきです。適当な時間で強制的にPCを閉じて、休憩を取ったり散歩に出てみたりしてみましょう。

経営者は従業員の労働時間にも注意が必要です。テレワークにおける労働時間は、オフィスで働くよりも延びてしまう傾向があるので、強制的に終了させることを意識する必要があります。キャスターでは、業務によって差はありますが、17時など決められた時刻以降はクライアントへの連絡を禁止するというルールを定めています。メールの返信も翌日です。従業員が働き過ぎないように、会社や経営者が気を配ることがテレワークをスムーズに導入するポイントの一つです。

―― 最後に、これからテレワークへの適応を進める中小企業の経営者にメッセージをお願いします。

石倉氏 2011年に発生した東日本大震災のとき、BCP(事業継続計画)やテレワークの必要性が叫ばれましたが、時がたつにつれ企業の取り組みに差がついてしまいました。準備をしてこなかった企業にとって、いまは危機的な事態だと思います。

しかし、テクノロジーはこの9年間でものすごく進化しており、安価に完全なテレワーク環境を整えられます。しかもシステムだけではなく、ノウハウを持っているITアドバイザーを有しているパートナー企業も少なくありません。このような企業を上手に使うべきでしょう。

とにかく、始めることが重要です。そして、いきなり完璧を目指さず、中小企業のITに精通したアドバイザーに相談しながら進めていけばいいと考えます。

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アイティメディア営業企画
制作:TechTargetジャパン編集部
この記事はTechTargetジャパン(https://techtarget.itmedia.co.jp/)に2020年5月に掲載された
コンテンツを転載したものです。
https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2008/03/news09.html

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