デジタルトランスフォーメーションの必要性が叫ばれる昨今だが、どうすればよいのか分からず二の足を踏む企業も存在する。DX推進のための第一歩とは何か、行政のデジタル化を推進させるなど数々の経歴を持つ田中淳一氏に話を聞いた。

―― 三重県に移住したそうですが、住み心地はいかがですか。

田中淳一氏

田中氏 温暖でいいところですね。近畿日本鉄道の「特急ひのとり」の運行が始まり、大阪や名古屋から津へのアクセスに難はありません。三重県は世界遺産に認められた自然が残っており、テクノロジーの将来性でも可能性を秘めています。東京ではドローンを飛ばすにも手続きが大変ですが、三重では空飛ぶクルマの実証実験も行われているくらい進んでいます。今はPCとネット環境があれば仕事ができます。それならおいしいものがあり、窓から見える景色がきれいな方がいいですよね。

―― これまでの経歴や地方自治体との関わりについて教えてください。

田中氏 私は18歳で起業し、さまざまな事業の立ち上げに関わってきました。同時並行に進むものもあり、かなり前からパラレルワークでした。コンテンツ制作、民間宇宙産業、いろいろとありました。

あるとき大病をしまして地獄のどん底を味わいました。恩師の勧めもあり、九州で半年ほど静養したところ元気を取り戻すことができました。東京に戻ると不摂生に戻りそうでしたので、九州で仕事を再開しました。次第に地方で人脈が広がってきました。楽曲『恋するフォーチュンクッキー』が話題になったころ、そのミュージックビデオの佐賀県版に携わりました。そのあたりから行政との関わりが増えてきたように思います。

少子化対策や結婚支援で全国自治体を行脚したこともありました。地方では婚活支援をする前に女性の地位、暮らしやすさを向上させることが大切です。こうしたところで積極的にDXを推し進めました。例えばスマートアグリ(農業)も女性の地位向上に関係があります。農業は重労働なので男性が主体になりがちです。しかしテクノロジーで重労働を減らし、これまでのノウハウを生かすことができれば女性も農業に主体的に参画できるようになります。こういった活動を続けたことによって、地方創生やジェンダー問題に関して、いろいろな地域から相談を受けるようになりました。

―― 地方自治体での経験からDXやデジタル化の課題をどう見ていますか。

田中氏 行政に限らず中小企業では、DXの位置付けがなされていないのが問題かと思います。DXの目的が業務効率化だとしたら、誰が幸せになれるのか。それが不明瞭だと自分ごとにならず、誰もメリットを享受できません。例えば、私が以前関わった地方自治体では具体的に「女性が暮らしやすくなる」を施策の目的として打ち出しました。「何のために」が明確でないと行動に結び付きません。DXは行動変容を促すものです。

DXが何であるかよりも「今はDX時代を生きている」と考えることが必要なのではないでしょうか。今は当たり前のようにオンライン会議をしています。ほんの1年前とは大違いです。新しいテクノロジーは遅かれ早かれ、みんな使うようになります。DX時代においては変革のスピードをいかに上げるかです。それが世界との競争で大切なことです。

―― 自分ごと化できないとDXが進まないと。

田中氏 地方自治体や企業においては、まずは動機や理由はどうあれ「DXを推進させたい」と思う人が出てくることが必要です。誰もいなければ何も進みません。一方、組織にはまだDXに興味がなく、抵抗する人もいるでしょう。両者が歩み寄るには、共通の言葉と共通の理解が必要になります。

以前ジェンダーギャップに関連して、課題が解消された未来と解消されていない未来を、テクノロジー進化や地球環境変動なども合わせて予想してみようという取り組みがありました。ところが参加者の間で言葉と理解の隔たりがあまりに大き過ぎて、会話に困難を来したことがあります。DXも同様です。DXの推進には対話が必要ですが、その前に共通の言葉や理解が必要になります。分かり合えなければ物事は進みません。

中小企業におけるDX推進に関しても、トップが意欲を持てばいいのですが、そうではない企業も多いです。現場主導でもいいのですが、トップと言葉や理解の差で悩むこともあります。言葉と理解のギャップを埋めないと何も進みませんし、進めたとしても間違った方向に進んでしまう懸念があります。

―― 中小企業にITやDXのパートナーがいるとしたら、どんな存在であるべきでしょうか。

田中氏 ITのパートナーは、ITやDXのソリューションを提供する存在ではありますが、ソリューション中心に考えるとうまくいきません。そうではなくて「こういう未来がやってくる」と未来予想を共有し、一緒に歩んで行けるパートナーであるべきだと思います。

例えば本人確認のための顔認証技術があるとします。テクノロジーやソリューション先行で導入しようとすると「そのテクノロジーはもうかるの?」となり、結果的に不採用になってしまいます。しかしテクノロジーを実装するアプリケーションがもたらす価値が理解されていれば、コストがかかったとしても「必要だから導入しよう」という考えに至るのだと思います。

ソリューションだけを強く推しても理解されない可能性があります。ニーズにフォーカスしてコミュニケーションしていく存在であることが大事です。

―― 未来予想はどのような粒度、どのようなステップで進めていけばいいでしょうか。

田中氏 未来を予想するときに大事なのは未来を固定しないことです。未来は変わるものです。今周囲を見渡すと、生まれたときからあるものばかりではないでしょうか。これまでは多少の変化はあったとしても、基本的なところは変わらず過ごせてきました。ですから企業は中長期の計画を立てて事業を進めていくことも可能でした。

しかし今はどうでしょうか。5年後さえ分かりません。5カ年計画にどれだけ意味があるでしょうか。これからは変化の時代を生き抜く必要があります。そのためにはパートナーが必要になります。何かを解決するソリューションではなく、一緒に進化していけるパートナーです。

未来予想は定期的に見直していくようにしましょう。未来が変化するファクターも変わりますし、プレイヤーも変わります。最近なら「Clubhouse」のようなものが突発的に登場したり、「Zoom」や「Slack」もかなり定着したりしました。消えていくものもあります。社会や前提が変われば未来の方向性も変化していきます。地政学や社会環境などを俯瞰(ふかん)し、起きている状況を理解し、未来予想は定期的に見直していくことが必要です。

―― これからDXはどのように進んでいくのでしょうか。

田中氏 これまでデジタルソリューションというと、何らかの課題解決であったり、誰かの生産性を高めたり、何らかのニーズを満たすものでした。何かの課題解決ではなく、変化に適応して進化していくために必要なものとして、今デジタルソリューションの存在意義が変化してきています。

別の言い方をすると、自分に帯同するような、もっと身近なものになっていきます。毎日私たちはスマートフォンを手にして何かをしています。スマートフォンは手のひらに乗るサイズで物理的な存在感がありますが、将来はより小型化が進むでしょう。体に埋め込むチップのような形で、自分そのものであるかのように存在を意識しなくなるかもしれません。

私は2000年くらいから「インターネットは空気のように、当たり前のものになる」と言っています。インターネットもテクノロジーも身近どころか、自分そのものとなり「なくては生きていけない」存在になると思います。

―― まだDXをうまくイメージできていなくて悩んでいる企業もいます。

田中氏 DXにどう取り組んでいいか分からないとしたら、あまり難しく考えない方がいいでしょう。DXは「やらないと死んでしまう」ものではありません。私たちが「DX時代を生きていく」だけなのです。いかに時代や変化に早く適応していくかが問題です。それにDXや新しいテクノロジーはいずれやってきます。

遅かれ早かれということですが、世界で進化のスピードは高まっています。適応に時間がかかると経営が厳しくなる危険性は認識しておいた方がいいでしょう。進化のスピードを上げていくことが重要です。後は現状をよく理解し、腹落ちした上で適切なデジタルソリューションを選択していくことが大事です。

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アイティメディア営業企画
制作:TechTargetジャパン編集部
この記事はTechTargetジャパン(https://techtarget.itmedia.co.jp/)に2021年5月に掲載された
コンテンツを転載したものです。
https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2104/19/news04.html

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