人々の生活様式、働き方が変わった2020年。中小企業のDXの取り組みはどうなっていたのか、これからDXに取り組む中でポイントはどこにあるのか。ITプロセスコンサルタント、政府CIO補佐官として活躍する細川義洋氏に聞いた。

「DXの取り組みはほぼ皆無」

―― 中小企業のDXの取り組みをどう見ていますか。

細川氏 普段は経済産業省で仕事をしていて、同じ建物内にある中小企業庁の担当者と情報交換をしています。そこで聞くのは「中小企業におけるDXはほぼ皆無でまだ始まっていない」です。DXという言葉自体の認知は進んでいるものの「テレワークができればいいのか」「SaaSのERPを導入すればいいのか」と漠然としているようです。

ただしごく少数ですが、やっているところは「がっつり」という印象です。経営陣がトップダウンで進めているところは成果が出始めているようです。ごく一部ですが、芽が出始めているのは確かです。中小企業のDXはこれからの段階という状況でしょう。

行政の動きとして注目されている「デジタル改革」もDXも、経営者が率先しないと始まりません。組織構造や意識を変えていく必要があるためです。課題にメスを入れていくのは常道ですが、当然リスクもあります。中小企業の場合、リソースが限られるため経営者の“やる気”も重要です。

―― 「DXの取り組みはほぼ皆無」とのことですが、すでにDXの取り組みで成果を出している事例はありますか。

細川氏 幾つかあります。まずは、ある精密機械メーカーの事例です。海外に販売した機器の保守や顧客に対するアフターフォローが課題でした。精密機械は扱いが不慣れだと故障につながりやすく、海外は日本と比べて故障率が高かったそうです。そこで機器に各種センサーを取り付けました。温度、湿度、振動などを常時センシングして故障の原因を把握できるようにしたのです。

例えば加速度センサーで落下や衝撃、温度センサーで高温環境による稼働などの異常が分かります。保守スタッフが顧客に細かくヒアリングしなくても、センサーの記録から故障原因が分かるようになりました。またAI(人工知能)エンジンを搭載して故障の予兆もつかめるようになり、予防的な交換も可能となりました。これで保守コストを大きく減らしたそうです。

そして、その一連の保守サービスを、適切な利用方法を指導するコンサルティングサービスに発展させました。機器はいつどういったときに故障しやすいか、どのような点に配慮して扱えば故障しにくいかなど、保守サービスから付加価値を提供したのです。

プレス加工の金型を作るメーカーもDXの成功事例です。金型は非常に繊細で扱いが難しく、試行錯誤を経て製造します。熟練の職人ではないと製作に失敗してコストがかかるという課題があります。この会社は、熟練の職人による細かなノウハウやナレッジを徹底的にデータ化することで、歩留まりを大きく下げることに成功しました。金型を作るノウハウは共通化できる部分もあるため「ここに着目しよう」「この角度がポイント」などのノウハウをまとめた支援システムとして、今では外販もしているそうです。

―― 課題の克服に取り組みつつ、売り上げアップにつなげたのですね。

細川氏 同業他社と協業するケースもあります。愛知県にある小規模な金型製作所は、自社でさばけない数の受注に対し、企業の連合体を作ることで対処しました。それぞれの企業が所有する生産機械にセンサーを導入し、互いの稼働状況をオープンにしたのです。これで共同受注ができて、効率化につなげました。

「安定志向」が競争力を弱めていく

―― 新たなビジネスモデルを創出した事例をはじめとしてDXの取り組みが進んでいるのですね。「取り組みがほぼ皆無」という話もありましたが、何が原因なのでしょうか。

政府CIO補佐官 細川義洋氏

細川氏 「昨日と同じ今日を過ごし、明日も平穏に流れていればいい」と考えている企業が少なくないためだと考えています。昨年の年商が5億1000万円で今年が5億500万円くらいに減ったとしても「まあそんなもんかな」と。

10年前と比べて売り上げが半減したなら「これは大変だ」と危機感を持つかもしれませんが、差が少ないと危機感を覚えません。結果、「なぜリソースに限りがある中でリスクを取ってまでDXに挑戦しなくてはいけないのか」と必要性を感じられないのです。周囲に目を向け、現在起きていることに気付く必要があります。そうでないと、じり貧になってしまいます。

―― DXを実現するための手段が明確ではないのも、一歩を踏み出しづらくしているのかもしれません。

細川氏 確かに「新しい機械やツールを導入すればいい」で終わらないのがDXの難しいところです。先述した事例は「ユーザーが機器を適切に扱えずに保守コストがかかる」「あと数年で熟練の職人が退職してしまう」「うちだけでは注文をさばききれない」といった事業の根幹を揺るがすような課題が突き付けられ、その危機感がDXを実現させるきっかけになっています。センサーやAIは手段であり、目的ではないのです。

「保守費用がかかるのは仕方がない」と諦めることもできる中で、「何とかしなければ」と課題を克服しようとしたとき、センサーや何らかの手段に活路を見いだして変化を起こしていくのです。

後「(自分たちには)斬新なことを成し遂げる力がない」と考えていると、いつまでたっても身動きが取れないままになるかもしれません。特に年齢が高い経営者は安定志向になりがちです。ラジカルに変えることに抵抗があるのはよく分かりますが……。

同じ中小企業でも若手中心のスタートアップだと、先進技術の活用が目的化して、技術に振り回されてしまう傾向があります。いずれにしても、自社の課題を見つけて長期的な視野で解決を目指すことが大切です。

課題解決やDX成功に導くためのITパートナーを選ぶには

―― 今後、DXの取り組みを進める中小企業がITパートナーを選ぶ際のポイントを教えてください。

細川氏 最も有用なパートナーになり得るのはコンサルタントに近い存在です。財務諸表から弱みや課題がどこにあるか仮説を立て、相談に乗ったり、時にはたきつけたりしてくれるパートナーは重要です。社長や従業員と悩みを共有して、一緒に解決してくれる相手が理想です。

他社の事例をよく知っていることも大切です。どのような課題をどのような技術で解決したか。ITの深い知識はもちろん、法的な知識、特に権利関係もよく知っている相手がいいでしょう。

システム開発案件では訴訟になることもあります。要件通りのシステムが納品されない以前の問題で、要件がうまく伝わらなかった、目的を共有できていなかったケースもあります。開発段階に進むと技術者の意見が優先されて気付かぬうちに目的から離れてしまいがちです。もともとの目的は何だったのか。コスト削減か、顧客とのコミュニケーションか、DXか。細かい機能やわずかな処理時間の差などに惑わされず、要らないこだわりは排除する必要があります。

最後に、ツールを開発するベンダーの選定です。最初からツールをアピールする相手は自分たちの実績作りを優先しがちです。システム開発を依頼する際は、バスケットボールのピボットのように、常に軸足は自分たちの目的に据えておいて、反対の足で試行錯誤するといいでしょう。軸が動いたら戻すよう、目を光らせておきます。中小企業の横のつながりで、優良ベンダーがどこか情報交換するのも、もちろんありでしょうね。

―― DXを成功させるコツはありますか。

細川氏 多面的に進めていくことが重要です。ツール、つまりソフトウェアやクラウドサービスも不可欠ですが、ツール導入だけでは完結しません。業務プロセスの改革や従業員の意識改革も必要ですし、組織構造そのものを変える必要もあるかもしれません。新しい人材も不可欠です。外部から招くのか、自社で育てるのか、どんなスキルが必要かも検討が欠かせません。

ツール、プロセス、組織、人を同時に動かす必要があります。ツールを導入したけど誰も使えない、プロセスや組織構造を変えたけどツールがない、新しいツールを開発したけど従業員の意識が変わらず「こんなの使えない」と効果を出せない、なんてことが起こり得ます。どれか1つ達成したからといって満足してはいけませんし、何かが欠けていてもダメです。

最も大切なのはトップのイニシアチブです。ツール、プロセス、組織、人それぞれを全社で変えていくためにはトップが動かないとできません。

―― それぞれの本業を抱える中小企業にとってDXは難易度が高い印象です。

細川氏 日本を支えているのは中小企業、特に熟練の職人さんを抱える製造業でしょう。熟練の職人さんは驚異的な技能を持っています。天文台が使用するレンズは機械で検出できないほどの微細な傷を発見してきれいに磨いたり、ロケットで使う部品は最後にハンマーの音で異常を見分けたりします。最近、小惑星のサンプルリターンを成し遂げた探査機も、日本の中小企業の技術が多く盛り込まれています。こうした中小企業の職人の技術が大手製造業で結集し、サービス業や金融業を支えています。

熟練職人のノウハウをデータ化する事例も紹介しましたが、これは職人が不要になるということではありません。技術継承や効率化を進め、さらなる熟練の極みを目指すことができます。中小企業は現在抱える課題をDXの実現で克服してもらいたいですね。

COVID-19の拡大で目に見えていなかった課題が浮き彫りになった企業も少なくないと思います。問題が顕在化したのなら、腰を据えて取り組むチャンスとも取れるのではないでしょうか。

―― それには良いITパートナーが必要ですね。

細川氏 最終的には信頼関係です。まずはすぐ相談できることですが、担当が自らどんな人物でどんな経歴を持つかを示し、細かな相談を積み上げて信頼関係を築いていきましょう。人を見る目に長(た)けている中小企業の経営者は多いので、そこは見極められるはずです。

企業の課題をよく理解し、中小企業に寄り添ってくれるパートナーに出会えるといいですね。

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アイティメディア営業企画
制作:TechTargetジャパン編集部
この記事はTechTargetジャパン(https://techtarget.itmedia.co.jp/)に2021年2月に掲載された
コンテンツを転載したものです。
https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2101/15/news05.html

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