コロナ禍でデジタル活用の重要性が再認識されているが、5Gのような先端テクノロジーはどう広まっていくのか。中小企業における5G活用やIT投資のポイントを『5Gビジネス』著者の亀井卓也氏に聞いた。

5Gの柔軟性が、イノベーションにつながる

―― 5Gの特徴をどう見ていますか。

亀井氏 5Gの「高速大容量」「低遅延」「多数同時接続」といった特徴はすでにあちこちで情報が出ているため、ご存じの方も多いと思います。

ビジネスの文脈で5Gを見たときに重要な要素は「柔軟性」です。柔軟性とは、極めて大容量になったリソースの「切り売り」で生まれる概念です。

コンピュータの世界を見てみると、クラウドベンダーがインフラを提供するようになり、必要に応じていつでも自由に計算資源を利用できる時代になりました。これによって何が起きたかというと、クラウドを活用した新しいビジネスを興すベンチャーが次々と登場し、急成長していきました。それは結果的に、社会にイノベーションを起こす要因にもなったのです。ビジネス創出のプロセスが大きく変わったと言えます。

一方で、5Gが高速大容量といっても「何に使うの?」と考える人が少なくないでしょう。私は、クラウドが起こした変革と同様、ネットワークが大容量になり柔軟性が高まることで、それを生かした新しいビジネスが生まれると確信しています。

また「エッジコンピューティング」の分野も活発になると見ています。5Gの活用によってクラウドとエッジを連携させることができれば、プライバシーを考慮して製品を導入しやすくなります。サービスを提供するベンダーも、ぜひそこに注目してほしいと思います。

―― 5Gの普及で、企業や生活はどう変わると見ていますか。

亀井氏 まず、あらゆるデバイスがネットワークにつながります。そうした時代に適応して、サービスの作り方も昨今いわれるアジャイル型にどんどんシフトしていきます。コロナ禍でテレワークが定着しましたが、5Gの普及で分散型の働き方はますます広がり、制約から解き放たれ、より生産性を高めることができるようになるでしょう。

「ローカル5G」の利用も期待されています。私は「フィールドビジネスのDX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼んでいるのですが、オープンな環境よりもむしろ先に伸びそうなのは、閉じた空間内における5Gの利用です。それは中小企業でも活用できる可能性があります。

野村総合研究所 亀井卓也氏

閉空間に電波を充満させる

―― 企業にとって5Gの可能性をどう見ていますか。

亀井氏 5G活用のシナリオを考えると、何を一歩目とするかが重要です。まず一歩目は「フィールド」という考え方から始めるのがいいと思っています。フィールドとは、テクノロジーを活用する場のことです。工場や病院、スタジアムはもちろん、マンション数棟分もフィールドです。スマートシティーもそうです。広さはさまざまですが、特定の目的でネットワークを閉じて使えるエリアで5Gを使ったサービスを提供することができれば、利用価値は非常に高いと思います。

フィールドにおける5G活用のポイントは「電波を充満させる意義」にあると考えています。空間の中に置かれた機器全てに電波が届くようにすると、どんなよいことがあるのか、ということです。通信事業者も工場のスマート化に向けて、まずは電波を隅々の機器まで届けるためのチャレンジをしています。

数年前は、メンテナンス会社が遠隔地の工場で使われている機器の遠隔チェックをする際、遠隔監視システムの導入を検討するなど大掛かりなことを考えるのが一般的でした。しかし工場内に電波が満たされているなら、その工場の作業者がタブレットを持ち込んで、機器を撮影して動画をライブ配信すれば、リアルタイムに情報を送ることができます。大掛かりで難しかったことが容易に実現できるようになるのです。

「5Gで工場はハードからソフトに転換する」

―― 中小企業が5Gを検討するとき、どうしてもコストや人員の確保が課題になると考えられます。

亀井氏 そうですね。まずは大企業がユースケースを作り、そこから裾野が広がるのを待つという考え方もあるでしょう。ただ、あえて中小企業が最初に手を挙げて、先行事例を立ち上げてしまう手もあります。大企業よりも身軽に動けるメリットを生かして、ファーストユーザーになれば、得られるものは大きいはずです。

中小企業が5Gを生かす展開先として工場が考えられます。工場という閉じた空間は、とても断片化されているマーケットで、大手IT企業も入りづらい。一方で中小企業は独自のテクノロジーに特化して、先鋭化しています。

事例も続々と出てきています。石川県のある設備機器メーカーは、大手通信事業者や地元の大学と連携して、5Gを活用したスマート工場を作りました。山口県の機械部品メーカーも5Gを導入した新工場の実証実験を始めています。

―― スマート工場を作る際に、5Gのメリットはどう生かされるのでしょうか。

亀井氏 最初に、工場における5G活用にどのようなメリットがあるのかを真剣に考えるべきです。工場における5G活用事例でよく掲げられている目標は「生産ラインの柔軟性を高めること」です。既存の生産ラインをなくし、5GでつながったAGV(無人搬送車)を駆使して部品を組み立てていく。そうすることで生産ラインという設備の負担がなくなり、製造する製品の自由度が大幅に上がります。従来は違う製品を作る際には、まず生産ラインを組み替える必要がありました。生産ラインをAGVで構築できれば、極端な話、平らな床さえあればどんなものでも製造できるようになります。

これはものづくりに革命をもたらします。従来は生産ラインをどう設計するかというハードウェアの世界でしたが、5Gを活用することで、AGVをどう走らせるかを考えるソフトウェアの世界に転換していくからです。特に資金が限られる中小企業にとっては大きなメリットをもたらします。

最初に基礎となる工場を設計したら、次はその工場をコピーしてサーバを用意するだけで済みます。工場がこれまで培ってきたハードウェアの知見をソフトウェア化して、それをブラックボックス化することで、ものづくりのノウハウを閉じ込めたまま世界に展開することができるようになります。

―― 高速大容量、低遅延、多数同時接続の話だけに注目してしまうと、大きなイノベーションが見えなくなるというわけですね。

亀井氏 そうです。機器や工場全体をコネクテッドにする便益とは何かを考える必要があります。実は「4G(第4世代移動通信システム)」で十分で、5Gにはおいおいアップグレードすればいいと分かるかもしれません。よくいわれているように「テクノロジー先行では成功しない」のは、こうした検討をせずに始めてしまうからです。まずつながる世界をイメージして、そこに4G、5Gというテクノロジーを適材適所で入れていくこと。「急がば回れ」がいいと思います。

テクノロジーでビジネスを成長させる視点を持つ

―― 5Gに限らず、テクノロジー全般にいえることですね。特に中小企業にとって、デジタル化の観点で押さえておくべきポイントはありますか。

亀井氏 中小企業にとって、デジタル化を含むIT投資でコストが優先されるのは仕方がないことです。そもそも、事業の資産や業務ノウハウのデータ化、デジタル化がほとんどできていないケースも珍しくないでしょう。

しかし、そこから踏み込んで、売り上げを伸ばすことに考えを発展させるべきです。例えば私は「監視カメラを導入するなら、それをマーケティングに応用してみませんか」とよく話すのですが、守りの対策だけでなく攻めの投資としてITを捉えることをお勧めしています。

―― 特に中小企業にはITやデジタルのことが分からないというケースが多いと思います。活用を支援するITパートナーにはどのような条件が必要でしょうか。

亀井氏 これには構造的な問題があります。中小企業は自社の業界の競争環境は当然熟知していますが、それ以外のテクノロジー動向などには疎い傾向があります。一方のベンダーや通信会社は、テクノロジーや実装には詳しいものの、個別の企業の課題が分かりません。では誰がその間を埋めるのか。今はそこがまだ、ぽっかりあいているという認識です。つまり、企業側は提案書を待ち、ベンダー側は仕様書を待ちという受発注の関係から、ビジネスとテクノロジーが重なる領域で一緒に作っていく関係に歩み寄ることが重要です。

その際、パートナー企業には高い信頼性が求められます。これを私は「B2B2X」という言葉で説明しています。左側のBは通信事業者やITベンダーで、中央のBは主役である企業、そして右のXは顧客である取引先や消費者です。企業(中央のB)が、通信事業者やベンダー(左のB)から5Gやテクノロジーを導入して、取引先や消費者(X)にサービスとして提供する。その瞬間から、Xから大量のデータが通信事業者やベンダーに送られます。

B2B2Cについて「左側のB2Bと右側のB2Cが合体したもの」と認識されていることもあるように思いますが、私は、B2B2Xを一体のビジネスモデルだと考えています。

Xで生成されるデータは、一番左のB、つまり通信事業者やベンダーが管理するインフラで管理され、必要に応じて中央のBは左のBからデータや加工した結果を取り出してXに価値を還元します。Xは当然、信頼できるベンダーが提供するインフラにデータを預けたいと思うはずです。Xは中央のBを信頼していますが、データを保全する部分やテクノロジーを担保する一番左のBの後ろ盾がなければその信頼は生まれないでしょう。その意味で、企業がどのようなITパートナーと組むかが、ビジネスを発展させる上で非常に重要になるのです。

―― コロナ禍で大企業を中心にテレワークが広まる一方、中小企業は遅れているという話も聞きます。どうすれば新しい時代に適応できるでしょうか。

亀井氏 ツールを入れたからといってテレワークができるわけではありません。テレワークに合わせた働き方の制度を変える必要があります。特に中小企業の場合、従業員の裁量で仕事を回している部分が大きく、大企業以上にジョブ型への転換のハードルは高いでしょう。制度作りで悩む中小企業の経営者は少なくないはずです。

先が見通せない今だからこそ、私は経営者に、自社のビジネス目標を再定義することをお勧めします。ここでもITパートナーの力を利用すべきです。信頼できるパートナーの知見を取り入れて、客観的に方向性を定めていく。そして目標の実現のために、ツールを含めて何が必要なのかを一緒に考えられるITパートナーがいるといいですね。

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アイティメディア営業企画
制作:TechTargetジャパン編集部
この記事はTechTargetジャパン(https://techtarget.itmedia.co.jp/)に2021年2月に掲載された
コンテンツを転載したものです。
https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2103/09/news01.html

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