「ユニクロ」「GU」を展開するファーストリテイリングで長年にわたりIT部門責任者を務め、同社のグローバル企業への成長をシステム面から支えた岡田章二氏に中小企業のDXにおける課題とチャンスを聞いた。

経営者はDXより先に方向性を示すことが重要

―― 岡田さんがファーストリテイリングに入社された当時、企業としてはまだ“中小企業”だったそうですね。

岡田氏 ええ。年商は150億円程度、店舗数は西日本中心に70ほどの衣料品チェーンでした。当時、同社のITは、それまでのアウトソーシングからSIerと組んで自社で情報システムを構築したばかりで、大混乱のさなかにありました。その収拾を依頼され、入社しました。

入社後、「システムに問題がある」と言われたので調査してみると「システムを入れて便利になった」という店長もいれば「使えない」という人もいることが分かりました。要は、システムではなく業務そのものが標準化されていないことが大混乱の原因だったのです。声の大きい人が「システムが悪い」と本部に報告したために、その意見が多数派だと経営層も錯覚してしまっていたのです。

そこで私は、システムには一切触らず、現場から業務を学んで業務標準を定義し、店舗運営マニュアルを作って各店舗に配布し、教育してもらいました。当時、チェーン店の運営をマニュアル化する動きが活発化していたので、私もそれを実行しました。

ここでの経験は、私の仕事のスタンスを作り上げました。まず業務そのものをしっかりさせなければ、どんなシステムを入れてもまともに動かないということです。

現在、DXといわれる企業のデジタル変革の取り組みにも、この考えは当てはまります。DXについて「まず仕組み(システム)をつくらなければいけない」という話をする人がいますが、私はそれではうまくいかないと思っています。

最初に経営者が「どういう会社にすべきか」を社員に宣言しなければいけません。どういうサービスを提供し、顧客に何を期待されているかを経営方針として落とし込み、現場に伝えることが必要です。それがあって組織は初めて動いていくと思います。その動く過程でテクノロジーの力が必要になれば、手段として利用すればよいのです。

DXがうまくいく会社は、ビジョンが明確です。自社のビジョンが社員にもしっかり浸透している企業が成功しています。私たちが現在支援している企業は皆、経営者の掲げる目標が決まっていて、そのために何をすべきかという段階からの議論もできています。DXの主体はあくまでも企業であること。これが重要です。

ISENSE 代表取締役社長 岡田章二氏

経営者が当事者意識を持ち、変革をリードする

―― 経営者は、目的を明確にすること以外に何が必要でしょうか。

岡田氏 謙虚に現場の声を聞き、自分で見届けることが大切です。中小企業のDXの事例として、当社が支援しているハルメクを紹介します。同社社長の宮澤孝夫氏は、細かいディテールの話まで自ら入っていき現場で考える人です。

同社はもともとシニア向けのカタログ通販を主業にしていて、イベント予約やネット通販の取り組みが遅れていました。そこでわれわれと共に実証実験をすることにしました。仮設のWebサイトを立ち上げてイベント予約をできるようにして、Webサイトとコールセンターのどちらが多く予約注文数を得られるか比較したのです。事前の予想では、60~70代の人はやはり電話が大半だろうと思っていましたが、ふたを開けてみるとWebサイトからの注文が7割という驚くべき結果になりました。「シニア層はインターネット(Webサイト)を使えない」という先入観でいると、大きな判断ミスを犯すところでした。

ここで重要なのは、社内に長年根差している「うちは○○」という人たちの固定観念を覆すことができるのは、経営者しかいないということです。経営者が自ら新しい可能性を検証する場に立ち会っているから、その方向に進むことができます。システムの導入も、いかにトップの後ろ盾が重要かが分かる一例だと思います。

IT担当者の力だけで、企業のデジタル変革はうまく進まないケースは少なくありません。業務効率化のためにRPA(ロボティックプロセスオートメーション)などの自動化を実現する製品を導入する際に、システム部門主体で取り組んでも期待値ほどの実質的な効果は出ません。PoC(概念実証)ではシステム化で何百時間の工数が削減できると明らかになっても、現場の人員は簡単に減らすことはできませんし、その権限はシステム部門にはありません。何のために自動化、システム化するのか目的が明確ではないと、ただ製品を導入しただけになってしまいます。

私がこれまで見てきた企業でも、経営者がIT導入の目的意識をはっきり持っているところでは成功していると思います。逆に経営者がIT部門に「うちのDXを何とかしろ」と言っているだけの企業は、いつまでたってもうまくいかないでしょう。

ITのサービス化が進み、中小企業はチャンス

―― 大手企業に対して中小企業は、ITに投資できる予算も人員も少ないことが不利だといわれています。どう対処すればいいでしょうか。

岡田氏 私はむしろ、中小企業の方がITを使いこなせる時代に変わってきていると思います。昔はシステムの導入にかかる予算が大規模だったので、大きい会社でないと最新のシステムは検討できませんでした。しかし今は豊富なクラウドサービスが提供されているので、工夫次第ですぐにでも導入できます。

大企業がITをうまく使えない理由は、入社したときから自分の担当が決まっていて、そこの専門性だけを突き詰めていくからです。サイロに阻まれ、全社を見ることができる人は少ないのです。一方の中小企業では、リーダーはちょっと背伸びすれば企業全体を見渡せるので、課題も発見しやすいと思います。

DXとは業務の進め方や自社のビジネスモデルを変えていくことなので、サイロ化された大企業の中にいるよりも、コンパクトな会社にいる方が機敏に動きやすいのです。

とはいえ、中小企業でDXがうまくいかないこともあります。よくあるのが、システムに精通している人を外部から連れてきて、DXのリーダーに据えてしまうことです。「システムに詳しいのだからDXをお願い」と丸投げしてしまう。その人はシステムを作ることはできますが、システムをどう経営に生かしたらよいのかを知らないのです。これではうまくいくわけがありません。経営者がそこに割って入って、リードする必要があります。

同じ理由で、外部のコンサルティング会社、SIerの言うことをうのみにしてはいけません。外部の意見を聞くなら、自社なりに意見をかみ砕き、自分ごととして改革を推進する必要があります。

私が企業のアドバイザーという立場で経営者と話をするときに、一番多く言われるのは「現場が大変そう、困っている」という話です。実はDXのような取り組みを行った結果さらに大変になってしまったという話が多いのです。経営者と現場のリーダーが当事者意識を持って取り組まないとこのようなことが発生してしまいます。

「これを入れればDXはうまくいく」なんてことも絶対にないと思ってください(笑)。本当の解決策は、もっと自社の業務に寄った部分に存在するのです。ポイントソリューションで全ての業務を突破できることはありません。

少し抽象的な話になりますが、全ての業務がシステムでつながっているのと同様に、全ての社員に共通の思想がなければ全社的な変革はうまくいきません。例えば小売業ならば、どの会社も自社の扱う商品に関するフィロソフィー(哲学)を持っているはずです。それが、営業だけでなくシステム担当者にも浸透していなければいけません。自分はシステム部門の人間だからサービス精神は不要、ということはないのです。

仲間として課題に取り組んでくれるパートナーを探すべき

―― 中小企業が外部のアドバイザーとの関係を築く際に、どういうことに気を付けるべきでしょうか。

岡田氏 繰り返しですが、丸投げはうまくいきません。パートナーの立場からすると、よく「お客さまの立場に立って提案」と言いますが、企業にとってそういう存在は危険です。むしろ自社と一緒になって、仲間として課題に取り組んでくれるパートナーを探すべきです。

依頼する企業から見ると、何でも要望に応えてくれる相手はありがたい気もしますが、顧客に言われたことしかやってくれないところとは付き合わない方がいいと思います。プロとしてのアドバイスを聞きたい場合にしっかり踏み込んでくる企業と組んだ方が、自社を前進させることになります。

せっかく外部の力を利用するなら、発注者、受注者の関係を超えたパートナーシップを結べるように企業側も考えるべきです。外部のパートナーも、表面的な対応に終始するだけでなく顧客の課題を探して改善する提案をすべきでしょう。

単にモノを買えばよいのであればネットを使えば済みますが、企業ITはそうもいきません。今は、仕事の数だけコンピュータが動いています。どんなに小さな企業でも、かなりの数のシステムが稼働していて、それぞれが他のシステムと連鎖しています。その全体を俯瞰(ふかん)して見ることが重要です。部分的な改善も、それが全体にどう影響するかを検証する必要があります。

セキュリティも重要です。企業としてどのようなセキュリティ対策をしているか、継続的に安定運用するにはどのような管理が必要かなど、要件はますます複雑になっています。

ITパートナーとして組むなら、中小企業の皆さんはもちろん、成長するスタートアップからグローバルな大企業まで、幅広くビジネスを知っている経験豊富な企業と組むことをお勧めします。

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アイティメディア営業企画
制作:TechTargetジャパン編集部
この記事はTechTargetジャパン(https://techtarget.itmedia.co.jp/)に2021年2月に掲載された
コンテンツを転載したものです。
https://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/2101/15/news06.html

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