コロナ禍のテレワークで感じた「メリット」と「困ったこと」

新型コロナウイルスの影響が続く中、中小企業でもテレワークを採用する企業が増えている。社外からも業務データにアクセスし、活用する機会が多くなると、今まで以上に気を配る必要があるのがデータ保護(バックアップやセキュリティ)だ。とはいえ、それを怠るとどんなリスクが発生し、どのような対策が有効なのかさえ知らない人も少なくない。そこでフリーランスのソフトウエアエンジニアでタレントとしても活躍する池澤 あやかさんに、自身の経験も含めたデータ保護の心構えや対応策を聞いた。

―― 新型コロナウイルスの発生に伴い、ご自身の働き方はどのように変化しましたか。

池澤さん 私はフリーランスのソフトウエアエンジニアをしています。主にIT系のスタートアップからお仕事の依頼を受けていますが、GitHub(※)などリモートでアプリケーション開発できる環境が用意されていても、以前はその会社のオフィスに通って仕事をするのが一般的でした。ビデオ会議やチャットツールもありましたが、やはり対面でコミュニケーションしながら作業する方が楽しいし、効率がいいみたいな雰囲気があったからでしょう。そういう会社もコロナ禍後は、完全にテレワークになりました。

もともとリモートでもできる仕事ですから、自宅で仕事をしていてもあまり違和感はありません。ただ、ちょっと誰かに相談したいなと思ったときに、わざわざツールを立ち上げて聞くのも面倒だなと思うときはあります。とはいえ私自身、テレワークへ移行したことにはたくさんのメリットを感じています。出勤時間がなくなった分、自由に使える時間が増えましたから、昼間は友人と過ごしたり、家族とおうちごはんしたりと、QoLは確実に上がった気がします。これからコロナ禍が一段落して出社できる機会が増えたとしても、私自身はテレワークの割合が多い方がバリバリ働けるように感じています。

タレントとしてのお仕事もしていますが、コロナ禍になってからはラジオもテレビもリモートで収録する機会が増えました。自宅から出演することも多いので、マイクを新調したり、カメラを高性能なものに替えてライトも付けたりするとか、そういった環境を整えるのが少し大変でした。

(※)GitHub : Git(分散型バージョン管理システム)の仕組みを利用して、自分のプログラムやデザインデータをクラウド上にホスティングできるWebサービス。GitHubのリポジトリ(保存庫)は基本的にすべて公開されるが、アクセス権限を限定できる有料サービスもある。

池澤あやかさんが考える「重要データ」の保存先と守り方

―― テレワークが広まる中、企業ではセキュリティも含めたデータ保護やバックアップの重要性が高まっています。池澤さんは、どのような対策を心がけていますか。

池澤さん フリーランスも個人事業主なので、まず私自身のデータ保護対策をお話ししますと、PCで扱う重要データはすべてクラウドストレージにアップしています。お恥ずかしい話なんですが、一度パソコンにお味噌汁をこぼしたことがあって、それからはローカルになるべく大事なデータを入れないようにしているんです。クラウドにデータがあれば、手元のパソコンが壊れても、すぐに別のパソコンで作業を再開できますからね。

通常なら外付けドライブやNAS(Network Attached Storage)などにバックアップする人が多いと思います。でも私は自分で環境をつくるのが好きなので、使っているソフトウエアも含めて一気にクラウドからダウンロードして環境を再構築できるようにしています。

一方、メインで仕事をさせていただいている会社の方ですと、私がIT管理者ではないので正確には分からないのですが、重要データはスナップショットでD2D(Disk-to-Disk)やD2C(Disk-to-Cloud)で定期的にバックアップしていると思います。作業中のコードはGitHubでクラウド管理されていますから、基本的な保護対策はできているはずです。

―― 何かトラブルが起こってもデータは復旧できるようになっているということですね。

池澤さん そこまでは正直分かりません。データのダンプ(データをそのまま別のディスクなどにコピーする処理)は何度か見たことがあるのですが、データロストとかの重大トラブルがまだ発生していないようなので、復旧作業自体は一度もやったことがないような気がします。

実は私も過去に苦い経験がありまして、個人的に運用していたブログサイトのクラウドサーバーが、事業者の都合でサービスを停止することになり、急きょ、別のクラウドに移行しなければならなくなったんです。とりあえずダンプデータを作成したのですが、初めてのことなので移行手順が分からず、とても大変な思いをしました。試行錯誤しながら丸一日かけて、データ自体は移行できましたが、デザインデータをロストしてしまい、結局そのサイトは続けられなくなりました。

―― データのセキュリティ対策についてはいかがでしょう。

池澤さん 会社とお付き合いする上ではセキュリティの順守を厳しく問われます。私の場合は業務委託先のセキュリティ評価基準というものがあり、プライバシーマークやISO27001(ISMS認証)の内容・基準を理解し、守れているかどうかのチェックシートを提出しています。それが評価基準に達していたら仕事をいただけるという形です。また、アプリケーションの開発中に各自が自分のパソコンにダウンロードして作業するコードファイルなども厳しく管理する必要があるので、そこは常日頃から気をつけています。

ITの領域は広い。エンジニアでさえ分からないことはたくさんある

―― 中小企業がデータ保護やバックアップ環境を整備しようとする場合、どのような点に気をつけたらよいと思われますか。

池澤さん 一般的な中小企業では専任のIT管理者がいないことが多いので、そういったインフラ周りの環境をどうつくるかは、かなり難しい課題です。現状ではNASのようなストレージか、オンプレミス(自社保有)のサーバーでデータファイルを管理したりバックアップを行っていたりすることが多いと思います。その場合、イントラネットの中ではなんとなくデータの保護やセキュリティが保たれていても、いざテレワークが始まると自宅のWi-Fiから会社のイントラネットにいちいちアクセスするのは大変なので、つい手元のパソコンにローカルでデータを落として使いがちです。そうすると情報流出のリスクが増えますし、各自が更新したデータの整合性をどう保つのかといった問題も出てきます。

テレワークにも対応するデータ保護の解決策として有効なのはクラウドストレージを使うことですが、注意すべきポイントは、ユーザーが契約したクラウド領域のデータはユーザーの責任で保護する「責任共有モデル」が一般的だということです。つまり、クラウドにアップしたデータが消されていても、それが本人による削除なのか、なりすました第三者による悪意によるものなのかはクラウド事業者が判断できない。その責任はユーザーが負うしかないということです。だから会社はクラウドでデータバックアップサービスの契約を追加するか、自分でバックアップの仕組みをつくり込むしかないのです。これは私も最近、お仕事の取材で教えていただいたばかりの話なんですが、そんなことって、ほとんどの方が知りませんよね。

―― 池澤さんのようにITリテラシーの高い方でも、分からないことがあるんですね。

池澤さん ITの領域は広いので、分からないことはたくさんあります。さっき言ったようにバックアップの仕組みはつくれても、それを復旧するための手順はどうするかなんて、調べてみないと分かりません。友人にIT系じゃない中小企業に勤めている人がいるんですが、“ちょっとITのことを知っている”という理由だけで、ホームページの管理やパソコンの設定、Zoomの使い方を教えたりとか、“ITよろずや”みたいなことをしているようです。

会社で働く人全員がハッピーになるために

―いまお話しされたように、ITリテラシーがあまり高くない企業の場合、システム面での課題を克服する手段をなかなか持ちにくいという一面があります。それに関するお考えをお聞かせください。

池澤さん いくらIT系の仕事をしている人でも、サーバー、ネットワーク、セキュリティ、クラウドといったように、全方位で高い知識やスキルを持っているわけではありません。私自身もアプリケーション開発が専門ですが、そういったインフラ系はあまり詳しくないんです。IT系のスタートアップでも、当初採用するエンジニアはアプリケーション開発に偏るケースが多く、インフラ系やセキュリティ系のエンジニアは、もう少し規模が大きくなってからじゃないと採用できないことが多いみたいです。一般的な中小企業ならなおさらのことなので、そこは無理をせず、外部の専門家の知見を活用するというか、プロの方に相談して自社に最適なシステム環境を整備してもらう方がはるかに効率的だと思います。

―― 最後に、中小企業の経営者に向け、メッセージをいただけますでしょうか。

池澤さん コロナ禍に限らず、これからの時代の働き方はテレワークが中心になると思います。でも、いざテレワークを導入しようと考えても、具体的に何をそろえて、どのような環境をつくればいいのか分からないことが多いはずです。自宅用のパソコンはどれくらいのスペックがいいのか、接続回線をどう強化するか、データのセキュリティをどう守るか、ファイルのバックアップは何カ所に分けて保管するかなど、考えることが多すぎて計画が先に進まないというお話をよく聞きます。

ITにそれほど詳しくない社員の方に丸投げしても、結局はその方を苦しめるばかりなので、そこは外部のプロフェッショナルの方にしっかりサポートしていただきながら、いち早くITの便利さや効率性を享受できれば、会社で働く人全員がハッピーになれると思います。ITに関する不安は専門家に任せ、本業の方で前進していくことに力を注ぐ方が、会社の成長にもつながるのではないでしょうか。

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日経BPの許可により、2021年9月30日~2021年10月29日掲載の日経クロステック Active Special を再構成したものです。

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