デジタル化が迫られる中小企業の現状

今回のコロナ禍で一気に露呈したのが日本企業のデジタル化の遅れだ。特に中小企業では、システムの老朽化や人材不足、業務・ノウハウの属人化など多くの課題が指摘され、テレワークも進まないケースも少なくない。市場のデジタル化が加速する中、中小企業が自らの価値を高め、競争力を強化するためにはどうすればいいのか。「今こそ中小企業もDXを」と説く、中小企業診断士の竹内 幸次氏にデジタル化に向けた課題と解決策を聞いた。

―― DX(デジタル変革)は大企業がやるものと考えている中小企業は少なくありません。そうした中、竹内さんは日本の中小企業に対して、様々な形でデジタル活用の重要性を説いています。その理由についてお聞かせください。

竹内氏 私は中小企業診断士であり、中小企業の経営を活性化するプロです。「これは使ってもムダだ」と思ったら、一切提案はしません。私が長年にわたり「中小企業こそITだ」と言っているのは、それが有効だからです。中小企業は営業範囲が狭い。その範囲や地域の壁を乗り越えることができるのがITなのです。中小企業は人の数が少ない。会計をやりながら、営業をやりながら、社長業をやりながらと、1人が何役もやっている。その生産性向上や販路開拓には、やはりデジタルの力が有効なのです。

―― コロナ禍によって中小企業を取りまく環境はどのように変化したのでしょうか。また現状の中小企業における経営上の問題点と課題についてもお聞かせください。

竹内氏 中小企業庁が「中小企業白書」を公開しています。そのデータから分かるのは、2019年と2020年を比べると、4分の3の会社の売り上げが落ちていることです。経営者の多くは「需要の停滞」が問題だとおっしゃいます。業務の効率化が必要だ、IT化をしなければというより、まずコロナ禍と景気低迷による需要の停滞を一番に挙げるのです。

そういう方々に言いたいのは、「いろいろ状況は厳しいでしょう。でも文句を言う暇があったら、自分で需要の1つでもつくりませんか」ということです。インターネットを使えば、ヒントはいくらでも転がっています。『経営 ヒント』と検索すれば、他社の経営に関するブログも読めますし、私のホームページも出てきます(笑)。

特にお勧めしたいのが、博報堂の生活総研さんが公開している「未来年表」です。例えば「水素」と打ち込めば、何年後に水素関連でこういったことが起きますよという内容が、エビデンス情報付きで出てきます。これを読めば思考が未来に向いていきます。

経営とは何か。私はそう聞かれると「未来から評価される活動だ」と答えます。現状の課題を踏まえ、5年後から評価される種まきを、今しなければいけない。そこでこの未来年表が役立つのです。中小企業はマインドが重要です。動くのは自分自身、経営者自身なんだ、そこで力になるのがIT/デジタルなんです、と私はアドバイスしています。

中小企業が「未来」志向で新しい挑戦に踏み出すには

―― 近年は中小企業でも、様々な形でデジタル活用、DXを推進する企業も出てきています。中小企業において成功する企業、失敗する企業の差はどこにあるのでしょうか。

竹内氏 今お話したように「未来思考力」、未来を考える力が重要です。講演などで「飛行機と比べると、電車の方がCO2排出量は15分の1程度で済む」「ポルシェという車のメーカーが、CO2排出量を大幅に削減する合成燃料の工場の建設を始めた」などとお話しすると、皆さんは「なるほど、未来はそうなるのか」と“はっ”とされる。

問題は、そうしたイメージを膨らませて、自らも未来を志すことができるかどうかです。何かをきっかけに、経営者や従業員が前向きになれる会社もあれば、ダメな会社もある。手元資金がない、後継者がいないと悩まれるだけでは、どうしても内向きになり、新しい挑戦に踏み出さなくなる。IT化やDXへの志向も同じことだと思います。

―― 中小企業でデジタル化に成功した事例があれば教えていただけますでしょうか。

竹内氏 身近なSNSを使って集客に成功している例が、足場荷揚げシステムをつくっていらっしゃる横浜のユニパーさんです。飲食店や販売店ではSNSがよく使われていますが、同社は製造業なのにインスタグラムで製品の使い方や特長を動画で発信しています。現場の職人さんはPCではなくスマホを使うことが多いのですが、昼休みなどにこのインスタ動画を見て、「これはいいな」と電話で問い合わせや注文をくださるそうです。自社製品を無料で手軽に広められますし、ツール活用の発想が非常にユニークです。

同じく製造業でDXを成功されたのが、広島の深江特殊鋼さんです。早くからFAで工場を無人化したほか、鋼材や機械部品の検索・調達・加工・納品までを一括して行えるWebサイトを経由したデジタルマーケティングで、ピンポイントの高効率営業を展開されています。私が社長さんに、「ITによる合理化に対して社内から反対の声はなかったか」とお聞きしたところ、全くないと。「現場で困っていること、非効率なことをIT化し、従業員を楽にする視点で取り組んできたので、逆に現場からは喜ばれている」ということでした。まさに5年先、10年先の未来を見て、種まきした効果なのだと実感しました。

ITでは外部のプロの力を借りることが絶対に必要

―― いざデジタル活用に向けた環境を整備しようとすると、様々なトラブルが発生することも少なくありません。中小企業では具体的に、どのような課題やトラブルが生じるのでしょうか。

竹内氏 一番大きな問題は担当者がいないことです。中小企業に情報システム部門というのはほとんど存在しないわけですから、社長自らが兼務したり、若いというだけの理由で、採用後まだ数年の20代の従業員などが、LANやメールの設定などを全部任せられてしまっている。そういうケースを取引先でよく見てきました。

私がよく相談を受けるのが「通信回線が遅い」というお悩みです。中小企業でテレワークやクラウド化が進まない理由の1つは、経営者や管理者層が「通信回線が遅い」と思い込んでいるからかもしれません。「こんなにレスポンスが遅いとWeb会議でストレスがたまってしまう」「クラウドからデータをダウンロードするのに時間がかかる」。そういった不満の多くは、会社に高速の光回線を引き、Wi-Fiルーターを最新のものに買い換え、従業員の自宅のネット環境を高速化すれば、ほぼ解決できます。

私は、コロナ禍だからオンラインをやる、仕方なくテレワークをするというのは非常に古い発想に見えて仕方ありません。コロナ禍が終息してもオンラインやテレワークはやるべきです。ワークライフバランスだけではなく、SDGsの思想にもあるように、人の移動を極力少なくして環境に配慮する、地球環境を守るというのは、中小企業も含めた企業全体の責任だと思います。

また、セキュリティの問題にも注意しなければなりません。コロナ禍やテレワークの普及を契機に、企業規模を問わずサイバー攻撃を受ける可能性がますます高くなっています。予算や人的リソースが限られた状況の中、どのセキュリティ対策を優先すべきか分からないというお悩みも頻繁にお聞きします。それこそ兼任の担当者レベルで対処できる問題ではありません。やはりそこは外部のプロフェッショナルの力を借りることが絶対必要になってくると思います。

中小企業の“小ささ”を武器にする発想が重要

―― 現在、インフラ面においてテレワーク環境を整備することが中小企業にとって大きな課題となっています。特にITリテラシーがあまり高くない企業の場合、システム面での課題を克服する手段をなかなか持ちにくいという一面があります。それに関する考えをお聞かせください。

竹内氏 今申し上げたように、ITやデジタルといったテクノロジーが先行している分野では、プロのアドバイスを得ることが絶対に必要だと思っています。例えば、PCを1つ選ぶにも、どのスペックのモデルを選べばいいのか、セキュリティではどのソフトを入れればいいのかといったことで悩んでいる方は少なくありません。通信環境でも、最新規格のWi-Fi 6や5G/6G、データ分析やAI(人工知能)活用といったキーワードがどんどん出てきている中、中小企業はほかの大企業と比べて情報収集する力が弱く、なかなか活用することができない。そこはプロのアドバイスを受けた方が、様々なリスクも下がりますし、IT活用による成長の可能性が高まります。

―― 最後に、ITの導入を検討している中小企業の経営者に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

竹内氏 「ITは裏切らない」と、私は常々考えています。ITに対する投資を行い、マインドセットをしっかり持てば、必ず新規顧客との出会いが生まれたり、生産性が上がったりするという効果が出てきます。日本企業のIT化がなかなか進まないのは、一昔前の“コストダウンや人件費を減らす”といった考えからなかなか抜け切れていないからです。今後はそういった感覚は捨て、“新しい事業モデルをつくる”というDXの視点でデジタル化に取り組むべきでしょう。

もう1つ、私は中小企業の“小ささ”を武器にする発想がとても重要だと思っています。世界の中でもIT競争力が高い国って、ほとんどが小さいサイズの国なんです。実際にスウェーデンやデンマーク、シンガポールといった人口規模の小さい国が世界のIT競争力で上位3位を占めています。

つまり、小さいこと=IT競争力を高めやすいことにつながる。まだITを使いこなしていない中小企業が多いという前提でお話しすると、これから活用を始めても、ITの力で自社の魅力をどんどん発揮できる可能性がある――そう前向きにとらえて、ぜひIT化、デジタル化を積極的に推進していただきたいですね。

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Source

日経BPの許可により、2021年12月24日~2022年1月28日掲載の日経クロステック Active Special を再構成したものです。

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