何となくIT化の推進が必要だとは感じていても「具体的なメリットがよくわからない」「コスト負担がかかる」と、なかなか進まないのが中小企業のIT投資だ。しかし一定額のIT投資は、光熱費や携帯電話料金などと同様に事業の継続に欠かせない費用と捉えるべきであり、自社に合った適切なIT導入には外部プロフェッショナルの活用が有効と、ITコンサルタントの安藤準氏は力説する。その理由と背景について話を聞いた。

「データは壊れるもの」という認識を

安藤氏 「中小企業におけるIT環境の現実は、まだまだ整備が遅れているのが実態です。例えば、全社員50名程度で、管理業務だけでも少なくとも15台は必要と思われる会社でも5台程度を共用で使い回していたり、OSのバージョンも古かったりすることは珍しくありません。もはや規模を問わず企業経営において一定額のIT投資は必要不可欠ですが、まだ中小企業の現場ではそれが当たり前にはなっていません」

―― 中小企業を中心にITコンサルティングを手がけるアンドイットラボの安藤準代表取締役はそう指摘する。

業務を効率化し生産性を向上するためにIT投資が必要と、何となく理解はしていても、経営資源に限りがある中小企業にとってコスト負担は軽くはない。経営者を含む社員のITリテラシーも、決して高くないのが一般的だ。それらに加え、「ハンコがなければ請求書を受け付けない」といった古い慣習の存在が、IT導入を妨げている場合もある。

しかし、「費用がかかる」「効果がよくわからないから」といってIT環境の整備を後回しにしておくと、将来ツケを払わされる結果になりかねない。

アンドイットラボ 安藤 準 代表取締役
大手ベンダーに入社後、エンジニアとして100回以上のシステムトラブルを経験。2015年に独立し、中小企業診断士として中小企業の経営支援、IT支援を行う。とくに業務効率化を目指したITやWebのデータ活用を得意とする

―― 例えば、データのバックアップ。かつて大手ベンダーで緊急対応専門のシステムエンジニアとして活躍した安藤氏によると「当時発生するトラブルのうち、いちばん多いものがハードディスクの故障でした」だったという。つまり、データはよく壊れるものという前提でバックアップ体制を構築しておかなければ、重要な顧客データや会計データを失ってしまい、最悪の場合、経営がストップする可能性が生じてしまう。

セキュリティーに関しても、対策を怠ると事故が生じたときの被害に加え、情報漏洩などが起きた際、顧客や取引先に対し説明責任を果たせなくなる。それどころか、「当社はここまでセキュリティー対策をやっています」と一定の基準をクリアしないと、大手企業と取り引きできないおそれさえもある。

このように見ていけばIT投資は「光熱費や携帯料金の支払いをやめますか、というレベルで事業の継続に必要不可欠」(安藤氏)になっていることがわかるだろう。単なる一過性のコストとして捉えるのではなく、事業継続のために売り上げの一定の割合を投入する必要がある費用と位置づけるべきなのだ。

日本情報システム・ユーザー協会の「企業IT動向調査報告書 2021」によると、企業の売上高に占めるIT予算比率のトリム平均(データの最大値と最小値付近の値を計算から除外し、異常値の影響を排除した平均)は1.23%、中央値は1.00%だった。業種、業態による違いはあるが、おおむね売上高の1%程度を目安にするとよいと安藤氏は説明する。

自社の課題の本質を見抜けない経営者は多い

―― では、資金を捻出したとして、中小企業のIT化推進はどのような点がポイントになるだろうか。

安藤氏 「私が関わっている案件では、ご相談を受けた課題でも実地にヒアリングをしてみると、それは本当の課題ではないケースがあります。1つのポイントだけを見るのではなく、会社全体を見て総合的にデータ連携ができるようにしたり、人手を極力介さないようにしたりすることが大切です。もう1つ、自社の社員のITリテラシーを踏まえ、ハードルを上げすぎないことも重要です。まだタブレットすら使ったことがないのに、PCの複雑な操作を必要とするシステムを導入するなど、一足飛びに理想へ近づこうとすると失敗しやすいですね」

―― 安藤氏がコンサルティングを実施した、社員が30人、パート・アルバイトが200人働くある運送会社では、出勤簿を紙に手書きで記入して、それを手作業でパソコンへ入力し勤務時間や残業時間を計算、さらにそのデータを経理担当者に渡し給与計算を行っていた。さらにヒアリングをしてみると、この会社は個人情報を扱う業務もあるため、関係者以外は事務所に入れないよう入退室の管理を厳格化する必要にも迫られていた。

―― そこで取り組んだのがスマートロック入退室管理システムの導入だ。カードキーを所持していない人物の入室を防ぐと同時に、カードキーをかざしてからの入退室を徹底させることで、勤怠管理システムを自動化した。さらに、入退室データを会計システムと連携し、残業時間の把握を自動化することにも成功した。この会社ではシステム導入前に比べ勤怠管理や給与計算などの事務作業を10~15%軽減することができ、業務効率化と事業拡大に向けた経営基盤を強化することができました。

しかし、この会社の当初の相談内容は「出退勤の効率化」「入退室の厳格化」ではなく、「支店とのデータ共有」だったという。ヒアリングを進めると、管理部門が手作業で勤怠管理をしているため作業量が多く、支店側にも作業を分担させたいとの狙いだった。

すなわち、本質的な問題は勤怠管理の手作業にあった。そこで安藤氏が問題を整理し直し、前述した仕組みの構築に取り組んだのだ。また、導入に当たっては事前説明会や試用期間等を用意し、従業員が抵抗感なくシステムを活用できる配慮を行い、スムーズな運用につなげていった。

この事例のようにIT活用にあまり慣れておらず、経営資源に限りのある中小企業では、自社の問題の本質をITで解決できると思っていないことも多い。そんなときには、社外のプロフェッショナルを上手に活用することが有効な手段となりうる。

安藤氏 「IT業界以外の一般的な中小企業は、ほとんど自己流や思いつきでIT化に取り組んでいますが、ITソリューションは日進月歩の世界でいろいろな製品や手法がどんどん出てきます。その中で自社にとって最適なものを選択するのは、ITが本業でない人にとっては非常にハードルが高い。そんなときに、知識と経験のあるところに相談するのは、適切なIT化を進めるために極めて重要です」

―― 単に現在の業務をITに置き換えたり、ネットで商品を売ったりするだけにとどまらず、従来にはない新しい価値を生み出すことが目指すべきIT化のゴールだ。そのためにも豊富な知見を持つ外部のプロフェッショナルの活用は多くの企業で今後、検討すべきテーマになっていくだろう。

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