ベンチャー企業が創業当初からテレワークを導入した理由とは

世界各国で猛威を振るった新型コロナウイルスは、今も人々の生活や仕事に多大な影響を及ぼしている。日本でも緊急事態宣言の前後に多くの企業がテレワーク(在宅勤務)にシフトした。中小企業でも、あわててDell XPSシリーズをはじめとしたノートPCを従業員に配布したという企業も少なくないだろう。もちろん、ノートPCを配布することは、テレワークの前提条件とはなるものの、それだけでは不十分だ。実際に在宅勤務中に、IT環境で様々なトラブルを抱えた企業は少なくない。こうした状況をほかの企業はどのように乗り切ったのだろうか。ここでは創業当初からテレワークを導入している宇宙ベンチャー企業Synspectiveの芝 雄正氏に、社員間のコミュニケーションやマネジメント、ツールの活用法などその実践から得られた秘訣を聞いた。

―― Synspectiveの概要について簡単にご紹介ください。

芝氏 Synspectiveは2018年2月に創業した宇宙スタートアップ企業です。Synspectiveという社名は、Synthetic Data for Perspectiveの略で、宇宙と地球のデータを合成することで、これまでにない新たな視点でのソリューションを提供することをミッションとしています。

一般的な宇宙ベンチャーはデータ解析や衛星機器開発など、一部に特化した企業が多いのですが、当社はお客様ニーズをダイレクトに反映した機能を衛星に実装できるよう、雲に左右されずに観測が行えるSAR衛星の開発・製造・運用から、衛星データ解析・ソリューション提案までワンストップで行えるのが特徴です。衛星開発チームが30人、データ解析チームが30人、他コーポレートチーム、管理部門、役員を合わせ約80人で構成されています。私はもともと衛星画像ソリューション開発のエンジニアとして創業メンバーに加わりましたが、現在は主に人材採用、組織開発を担当しています。

ynspectiveでは、多数個の人工衛星をシステムとして協調させるコンステレーションの維持・運用と、衛星から得られた画像データや気候データを市場・経済データなどと組み合わせて分析するソリューション提供をワンストップで展開している

―― 新型コロナなどに伴う政府からの在宅勤務要請を受け、テレワークを検討する企業が増えています。Synspectiveは創業当初からテレワークを導入されていると伺っていますが、その理由を教えてください。

芝氏 我々のビジネスは技術的にもサービス的にも、これから立ち上がる新しいマーケットが相手となります。そこでの挑戦に“正解”はなく、トライアル&エラーの連続なので、各メンバーが常に適切な行動を自分で判断できるような組織を目指しています。そのためには個人の集中力を最大化する環境や時間が何よりも大切です。そこで最初からテレワークをしたい人も会社で仕事をしたい人も、自由に選択できる環境を用意しました。

自律的なメンバーで構成された組織ですので、どの人が週に何回テレワークを行ったかなどの管理はしていません。また、クラウド上で仕事ができる東京本社のデータ解析チームに比べ、衛星開発チームは、実際に部品を触る現場業務が多いので、これまでテレワークする機会が多くなかったのは確かです。

テレワークを普段から実践する企業がコロナ禍で得た気付きとは

―― 2020年4月7日の緊急事態宣言前後、働き方はどう変化したのでしょうか。

芝氏 緊急事態宣言の前に、全社テレワークを原則としました。現在もその状況が続いています。経理や総務などで、どうしても書類を処理しなければならない場合や、現場をケアする必要があるときなどはオフィスに行くこともあります。「自分の生産性を高めるためにテレワークをする」のではなく、「基本的にオフィスに来ない」という、半ば強制的なテレワーク状態になったことが、これまでとの大きな違いになります。

―― 普段からのテレワークの実践が、今回のコロナ禍で役立ったことはありますか。

芝氏 大きく2つあります。1つはセキュリティです。創業時から全社員がテレワークを選択できるよう、社外から安全にアクセスできるセキュリティ環境を整えていました。そこに関しては、今回も全く問題ありませんでした。

もう1つはオンラインミーティングです。当社ではG Suiteのビデオ会議ツール「Google Meet」と「Zoom」を、必要に応じて使える環境を用意しています。もともとシンガポールやアメリカ、ヨーロッパなどクライアントやパートナーそして採用含め、ビデオ会議で打ち合わせを行っていますし、社内外でのオンライン会議も普通に行っていました。我々採用チームも、海外居住者の面接から採用までをオンラインで完結させた経験もあり、この4月からオンラインで13人の新入社員の受け入れをしました。

―― それはすごいですね。逆にテレワークが一斉に行われたことで、何か思わぬトラブルが発生したというようなことはありますか。

芝氏 やはり衛星の開発・製造現場ではスケジューリング調整が大変でした。技術的な設計検討やリサーチなどは、テレワークでもなんとか行えますが、実際の製造にかかわる現場では、ギリギリの判断をしながら最適解を探すしか方法がありません。また、普段あまりテレワークをしていなかった衛星開発チームのメンバーは、自宅にWi-Fi環境がないケースもあったため、急遽ルーターを貸与するなどの手立てを講じました。

外出できずにストレスがたまったり、生活にメリハリがないため働きすぎてしまう社員もいました。そこでコミュニケーション不足を補うカジュアルなオンラインミーティングやエクササイズの時間を設けたり、会社の産業医にメンタルケアしてもらう対策も行ったりしました。

相互の進捗状況をシームレスにシェアして見える化

―― Synspectiveでは、テレワークをどのような仕組みで運用しているのですか。

芝氏 インフラ的には、ノートPCやスマホを1人1台環境で用意しています。特にデータ解析チームは普段から機械学習などの計算リソースをパブリッククラウドから調達しているので、テレワークでもオフィスと同様の快適さで業務が行えているようです。支援体制としては、IT/セキュリティ担当者が1人いるほか、データ解析チーム、衛星開発チームなど各部署のそれぞれにセキュリティの兼任担当が1人ずついます。担当者が連携しながら社員からの問い合わせなどに対応しています。

―― テレワークではコミュニケーションの重要性を指摘する企業が多いのですが、Synspectiveでは普段からどのようにコミュニケーションを図っているのでしょう。

芝氏 チーム横断型のプロジェクトもあるので、常にお互いの進捗状況をシームレスにシェアし、見える化できるよう心がけています。コロナ禍の前も月に一度は可能な限りフェース・ツー・フェースで全社会議を行い、各チームの進捗状況や課題感のシェアなどを行っていました。その際に、どうしても出社できないメンバーや、拠点が離れている衛星開発チームはZoomで参加していました。現在は全員が原則テレワークなので、全社会議はそのままZoomで行っています。チーム単位で行う10人以下の会議なら、Google Meetで行い、毎日ショートミーティングを入れるなど、それぞれの裁量で密なコミュニケーションを図るようにしています。

会議以外の社内コミュニケーションは基本的にSlackを使っています。お互いのスケジュールもGoogleカレンダーで見える化し、事前共有しながら各自がタイムマネジメントをしています。ファイル共有についてはG SuiteのGoogleドライブに保管しています。権限管理やセキュリティ管理がしっかりしているので、機密性の高い情報もそこに格納して、タイムリーかつセキュアな情報共有を行っています。

―― 完全テレワーク化が進んでいる中で、何か課題はありましたか。

芝氏 完全テレワークでは、やはりコミュニケーションを十分に取ることが難しい場面があると感じています。メールや資料作成などの作業であればテレワークは便利なのですが、アイデア出しや意思決定、課題解決などディスカッションが多くなるので、Slackやメールだけでは細かいニュアンスや感情が伝わりづらいことがあります。ZoomやGoogle Meetでも互いの顔は見えますが、やはり実際に会って会議するレベルにまでは届かないと感じています。

今後は社内でITリテラシーを育てていくことが重要

―― 今回のコロナ禍を受け、今後Synspectiveでは、働き方をどう進化させていくご予定でしょうか。

芝氏 今後、海外展開を進めていく上では、離れた拠点間でチームのコミュニケーションをどう高度化させていくのか、会社全体の事業をどう進めていくのかが大きな課題になっていきます。実際に7月4日・6日に全日オンラインで半年に一度行っていた合宿に代わる全社会議を行い、フェース・ツー・フェースの関係性に近いコミュニケーションの取り方にチャレンジしました。

―― ITリテラシーが高くない企業は、どのようにテレワーク環境を整備していけばいいと思いますか。

芝氏 今回は、いきなり多くの方々が在宅勤務をせざるを得ない状況になったため、企業側もかなり混乱したケースが多かったのではないでしょうか。ただ今後は、平時でもそうでないときもテレワーク環境が必須の時代になってきます。担当者のみならず、経営幹部も中心となってしっかりとテレワーク環境を整えることが大事ではないかと思います。

中小企業では社員のITリテラシーが不足しているという声もよく聞きますが、やはりこれからの時代は、ITをちゃんと理解し、タイムリーに対応できる人材がいないとテレワークの推進もままならない状況になっていくでしょう。もちろん最初からすべてをカバーできる必要はありません。ネットワーク、デバイス、セキュリティ、アプリケーションと一口にテレワーク環境といっても幅が広いため、はじめはいろいろな壁にぶつかるかもしれません。今いる人員で完結することが難しければ、IT専任の社員を採用する、あるいは社員の中でITに興味がある、挑戦したいという方を、外部のプロのアドバイスを受けながら育てていくのも1つのアプローチだと思います。テレワーク環境を形だけ整備しても、その後の運用をいかに行うかで、成否は決まってくるからです。

―― 最後に、テレワークの導入を検討している中小企業に経営者に向けたメッセージをいただけますでしょうか。

芝氏 テレワークの導入は必要になったからやるというよりは、経営幹部含めテレワークの重要性を理解し、社員にしっかりと伝えることが大切です。今は経営面でも人材面でも大変なタイミングで、なかなか一歩前に踏み出せない状況かもしれません。ただし、ここで行った投資は必ず将来、生産性向上による大きなコスト低減につながっていきますし、働きやすい環境を作ることによって優秀な人材の確保も進むと思います。経営者の方々には、そこにしっかりコミットしていくことを考えていただきたいですね。

Original
Source

日経BPの許可により、2020年7月15日~7月31日掲載 の日経クロステック Active Special を再構成したものです。

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