ビッグデータ全盛の時代、しかしデータは読む人によって、その表情を変えると言ったら信じられるだろうか。CINC代表取締役社長・石松友典は、こう力強く語る。

「恣意的な操作、望む結果を導くためのデータを集めることだって可能なのです。扱い方によっては同じデータの集合体からまったく逆の解を得ることもできる。データをどのように集め、正しく扱うか、戦略の段階から参画して提案できるのが、マーケティング×テクノロジーによるソリューションに特化したのがうちの強みです」

CINCは、最先端のデータ収集技術をもった生粋のテックドリブン・カンパニーである。業務拡張のために移転したばかりの同社のニューオフィスを訪ねた。

2013年のGoogleアルゴリズム変更で変わった潮目

「CINCが生まれたきっかけは、2013年のGoogleのアルゴリズム変更でした。ユーザー目線で有益と思われるサイトが検索の上位にあがるようになり、それまでの部分最適化を中心としたSEOアプローチが次々に無効になっていったのです。

それはまた、新たなコンテンツマーケティングが求められるということでもありました。私にとっては、世界最高峰レベルのデータ収集技術を生み出した平大志朗(取締役副社長)とともに、起業する絶好のタイミングでした」

石松の起業はこれが初めてではない。人材派遣業、外資系金融機関等に従事した後、08年に時代の先を読み、ライブコマースビジネスに参入しているのだ。このときの経験から、石松はITがその後の世界に及ぼす影響力を肌で感じとり、これからのイノベーションがオンライン上に続々と誕生していくことを確信していたという。

「デジタルにシフトした世界では、感性や感情も大切ですが、それ以上にデータが重要なのだと考えます。しかしここで注意しなければならないのは、データが常に正しい答えを導き出すわけではないということです。

 誤解を恐れずに言えば、データは恣意的に加工できるものです。膨大な情報量のビッグデータであれば、望みの答えを導き出すためのデータばかりを集めることも可能だからです。

例えば、今後の日本経済は良くなっていくのか、悪くなっていくのか。どちらの答えもそれぞれ、データから導き出すことができるということです」

では正しいデータの扱い方とはどういうものなのだろうか。実際にCINCが行っている手法を説明してもらった。

「ビッグデータをもとに正確な解を得るためには、さまざまな角度からの検討が必要です。そのときに最も重要なのが、リスクに関わるデータ。目をつぶらずに、しっかりと加味し、そこからインサイトを導き出して、仮説を立てることです。精度の高い仮説からでしか、最適な戦略は生み出せません」

従来のSEOの常識を覆す「Keywordmap」の革新性

CINC代表取締役社長・石松友典

そうした真のビッグデータ活用を手軽に可能にするソリューションが、自社開発のデータ収集技術を活用したWebマーケティング調査・分析ツールの「Keywordmap」なのだと石松は言う。Web上に数多く存在する調査・分析ツールとの違いはこうだ。

「『Keywordmap』は、圧倒的なデータ量をもとに、ユーザーの指定したドメインやキーワードに関する詳細・的確な分析データを抽出できます。従来のSEOツールは検索エンジンに対しての最適化ですが、『Keywordmap』はSEOを内包するネクストレベルのSEM(検索エンジンマーケティング)のためのツールなのです。

特徴的なのは、競合他社の分析も行えるところでしょうか。ユーザーがいま何を検索しているかという趣味嗜好分析だけに終わらず、同業他社が具体的にどのようなキーワードで集客し、どこに広告を出して顧客を得ているかを、可視化できるのです」

そこから判明した自社の優位点を弾き出し、戦略を構築することで勝利を手元に引き寄せる段階に入る。しかしCINCの知見に魅了されたユーザーからは、「社内のリソースでは心もとない」と、もうひとつ先のステップを要望されることも多かったという。

「そこで6月にローンチしたのが、『Keywordmap』を活用したサポートコンサルティングプランです。これはCINCのナレッジをベースに、『Keywordmap』を活用した数値レポート作成、キーワード選定、見出し案作成など、実際的な戦略・施策立案・運用に伴走するサービスです。

これにより社内リソースや知見が不足していても、短期間に的確なWebマーケティング施策を打つことが可能になるのです」

もちろん「Keywordmap」を支えるのはテクノロジーだ。データをどう扱うかという視点とともに、データ収集技術が肝になっている。

クロスプラットフォーム時代に最適化されたデータを集めるためには、収集先は今後一層広範になっていくと石松は言う。

ビジネスをグロースさせるためには、ICTを設計してくれる専門家が必要

データを客観視し、画期的なインサイトを見つけ出すことに長けているCINCだが、石松には自らのビジネスの成長ストーリーについても、同じように客観視する。

振り返ると、ただひとつだけ、いまでも後悔していることがあると、石松は口を開いた。

「ICTの導入に関しては、遅きに失した経験があります。以前の社屋にいるときに、会社の成長に社内のインフラ整備が追いつかなかったことがありました。社員が急増し70名に至った頃でしょうか。同時ログインが加速度的に増えていき、ある日、Wi-Fiの通信速度が急速に遅くなってしまったのです。IT企業でありながら、非常に恥ずかしい話です。それは業務遂行にとっては、致命的です。

当社はビッグデータを扱うだけに、データ量も非常に大きい。そうなることは予測できたはずでした。

ただITとひと口に言っても、その範囲は非常に広い。私たちはデータマーケティングプロダクトの専門性・特殊性には自信がありますが、そうした会社運営のためのインフラ構築に関しては、必ずしも詳しいわけではなかったのです」

そのため、今回の新社屋移転も視野に入れた半年前の段階で、情報システム担当者を雇用し、本格的な改革に乗り出したという。

「通常30名以下のベンチャーで情シスが存在すること自体、稀だと思います。バックオフィスの業務はどうしても守りのイメージがあるので、そこに投資する気持ちになれないこともよくわかります。しかし将来、業務拡張を狙うのだったら、現在の人数でこと足りるシステムで満足してしまってはいけないのです。

いま、CINCは80名。しかし将来の200名体制でも揺るがないシステムをつくっています。

そのためにはやはり専門的なアドバイザーが必要ですね。自分たちでは見えない、未来のトラブルまで予見して、ICTを設計してくれる専門家が必要なのです。

コストの問題もありますが、実は、つぎはぎで増やしていくほうがコストはアップします。セキュリティの問題もありますし。

無用なトラブルでビジネスのグロースを阻害する前に、ICTの専門家を迎え入れて、使いやすくセキュリティも問題のない環境を構築すべきでしたね」

真のインサイトはユーザーも気づいていない地点にあり

Webマーケティングの世界に革新を起こし続けるCINCだが、そこで働く社員は、いったいどのようなモチベーションで業務に励んでいるのだろうか。

「データ大好き、マーケティング大好きという人が多いですね。大量のデータから画期的なインサイトを見出すことに瞳を輝かせてしまう人間が多い気がします。

結果としてそれがユーザーベネフィットの最大化へとつながり、ビジネスとして成立するわけですが、そのイノベーティブな発見のプロセスが、彼らの原動力になっているのだと思います。真のインサイトは必ずしもユーザー本人が気付いていない地点にあったりもするので、そこが面白いところとも言えますね」

そして彼らのほぼ全員が、自社のテクノロジーを心から愛しているという。それはやはり、自社のデータ収集技術の革新性を、CINCのメンバーが日々実感しているからなのだろう。

最後に若い世代の起業家にメッセージをもらった。

「データは使い方次第、理解の深さで活用できる範囲が変わっていってしまうもの。もし同じWebマーケティングの世界を目指しているのなら、日々の勉強を欠かさないことを勧めます。

日進月歩で新しいプラットフォームが生まれ、斬新なサービスがローンチされる現代。つねに億劫になることなく、新しいテクノロジーに触れることで、未来はきっと広がっていくと思います」

Original
Source

text by Ryoichi Shimizu │ photographs by Shuji Goto │ edit by Akio Takashiro
「Forbes JAPAN Web」2020.07.31 配信記事より転載

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