5GやAIなどの先端技術は今後どのように活用が広まっていくのか。中小企業はこうした技術をどう捉え、どのように活用の道を探っていけばいいのか。国内外の技術動向に詳しい森 正弥氏に話を聞いた。

デロイト デジタル 執行役員 森 正弥氏

 「働き方改革」や「業務効率化」を背景に中小企業のIT導入が進み、今後はITを活用したビジネス成長への期待が高まっている。「Dell New XPS 13」をはじめとする使いやすさに配慮したITデバイスやアプリケーション、サービスが増加し、中小企業であってもITを活用したビジネス展開が容易となり、飛躍的に業績を伸ばす企業も増えてきた。

 この潮流の中で注目されているのが「5G(第5世代移動通信システム)」とAI(人工知能)だ。国内外の技術動向に詳しく、中小企業の技術導入にも見識を持つデロイト デジタル 執行役員の森 正弥氏は5Gについて、「5Gの主戦場はB2B(Business to Business)。しかもローカル5G」と語る。森氏が考える中小企業IT戦略論とは。

―― 新しい技術のビジネス利用について、特に中小企業が導入する際の着眼点を伺えればと思います。まず、国内でも商用サービスが始まった5Gについて、現状をどう見ていますか。

森氏(以下略) 5Gは現在、非常に注目されています。5Gに「高速大容量」「低遅延」「超多数端末接続」といった数々の特長があるためです。しかし、5Gを企業が導入・実装して成果を出すには、5Gの特長を生かしたアプリケーションの開発が不可欠です。中小企業においては、この部分がかなりハードルの高い取り組みになると考えています。

 B2C(Business to Consumer)に関して述べると、5Gの高速大容量という特長は、アプリケーションが従来のままでは、あまりエンドユーザーに対してのメリットにはなりません。ですが、「ネットワークスライシング」(ネットワークを仮想的に分割することで最適な帯域を提供可能とする概念)を用いた超多数端末接続という特長は、スタジアムやイベント、年越しの瞬間など、多くの利用者が一度に接続する状況で回線がパンクしづらくなるなど、メリットが多くあります。ただ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を防ぐため、密を避けなければいけない状況が今後も続きそうです。そのため、こうした特長も今は本領を発揮しづらい状況です。

 こうした背景もあり、私は5Gにおける当面の主戦場はB2Bだとみています。ドローン、自動運転、UGV(無人車両)などの運用で、低遅延の無線通信は欠かせません。例えば、ドローンが編隊を組んで飛んだり、大型トラックが高速道路を縦列で走ったりするなどの構想がある中で、事故なく連帯した動きを制御するには5Gの低遅延性が極めて重要です。ロボティクスの領域に入っていくような制御技術の開発が、今後本格化するでしょう。

制御という意味では、工場でも5Gの利用が考えられます。従来は製造ラインのロボットなど機器のコントロールは、遅延や容量の観点から有線のネットワークが主流でした。5Gで無線化できれば、製造ラインを組み替えることができるでしょうし、ロボットの配置を換える際にケーブルが邪魔になることもないでしょう。機動力と柔軟性を高めて多品種生産に対応した「スーパー工場」を実現できるのです。

 ただし、5Gを提供するアンテナはこれから地域を拡大していく段階です。当面は公衆回線よりも、いわゆる「ローカル5G」が本命だと考えています。各社が自社の工場内などでローカル5Gを導入することが、5Gのメリットをビジネスに生かす最短距離だと思います。

5G+エッジAIに今後注目

―― AIなど、その他の技術のビジネス導入はどう評価されていますか。

 5Gを利用して画像などの大容量のデータを高速に送ることができるようになると、送られてきたデータを高速処理するためにAIの利用が欠かせなくなります。例えば製造ラインを高速で通過する製品をカメラで撮影して異常を検知する場合、人の目では追従できないため画像認識のAIを利用することになります。現場や現場に近い場所でデータを処理するためのエッジコンピューティング、エッジAIが、今後注目されると思います。

 AIは技術優先で考えられてきましたが、実はここにきてAI技術を提供する企業の事業戦略が大きく変わっています。特にSaaS(Software as a Service)プロバイダーが「APIを通じてAIを利用できる」と紹介しても、自社のビジネスとの親和性を感じる企業は多くありません。そのため、業界の業務プロセスを理解しているコンサルタントが間に入らないと、導入や実装が難しいことが分かってきました。米国も日本も同じ現象が起きていて、SaaSを提供するスタートアップの中には、業界コンサルタントを大量に採用しているところもあります。

 5Gにせよ、AIにせよ、現場でどのように利用されるかを理解してデザインと開発する能力が必要なのです。

既存の強みを自動化するために、AIを利用する

―― 中小企業がこれらの技術を取り入れて自社のビジネスを伸ばすには、どういう考えが求められるのでしょうか。

 現場理解はもちろん、技術を現場にマッチングさせて寄り添わせる力が必要です。現場主義、顧客主義を強みとする中小企業はチャンスとも言えます。

 昨今、イノベーション理論の中で語られる「両利きの経営」が重要になってきます。これは既存の勝ちパターンをどうやって改善するかという「知の進化」と、全く新しいことを始める「知の探索」の2つを、まるで右手と左手を上手に動かすように同時に実現していく経営手法です。

 人手不足により専門的人材の採用が難しい現在の企業環境とAIの関係を見ると、まさにこの両利きの経営が役に立つと考えています。特に歴史の長い中小企業は、これまでに培った顧客基盤や業界知識という強みがあるはずです。ですがそれらを新たな事業に生かそうと思っても、日々の業務に追われていては無理です。人手不足の問題もあります。そこで、AIを理解して利用することで自動化できる業務を洗い出し、効率化を考えるのです。

 AIでこれまでの仕事を自動化することで、経験豊富な従業員は自由になり、その経験値を生かして未知の領域のビジネスを考える時間が生まれます。人員も少ない中小企業こそ、技術で働き方を変える必要があるのです。

 私が知っている小さなシステム会社は、これまで顔認証システムを企業に販売していました。新型コロナ禍に際しては、顔認証に加えて体温も表示できるシステムをすぐに開発しました。顧客ニーズを知って、それを素早く実行に移せるのも中小企業の強みだと思います。

技術をバネにビジネスモデルを変える

―― 一方、多くの中小企業は今でも「5GやAIは自社には無関係」「まだ早い」「利用できない」と思っているのが実態かもしれません。技術導入に前向きになるには何が必要ですか。

 こう考えてほしいと思います。仮に、現時点で自社製品を人間が仕上げると99%の完成度で、AIがやると60%の完成度だったとします。60%では「とても顧客には売れない」と考えるのが普通ですね。でもそうではなく、今まで取引をしてきた大切な顧客には引き続き人が99%の精度で出し、今までサービスを提供できていなかった顧客に、AIが作った60%の商品をトライアルとして売ってみることを考えるのです。

 人手を掛けていないAI製品が集客装置となり、AI製品を通じて自社を知った顧客に、人間が仕上げる99%の製品を紹介できます。職人や生身の従業員は、100社は相手にできても、1万社を相手にするのは時間的に難しいでしょう。AIにその制約はありません。人+AIがコラボレートすることで、新たなビジネスモデルを作ることもできるのです。もっと踏み込むなら、AIの60%の製品は無料にする「フリーミアム」モデルを作ってもいいと思います。

 しかし、完成度の高さを売りにしてきた企業が60%の完成度の製品を世に出そうとすると反発が予想されます。顧客志向でいいものを出すことを続けてきたプライドと衝突するためです。

 ここで求められるのが、経営者の手腕です。企業としてのプライドを守りながらこの問題を乗り越え、新たなビジネスモデルを打ち立てることができるかどうかが、これからの時代を勝ち抜く企業経営者には必要です。人を説得できず、右往左往しているうちに60%だったAIの精度が、99.9%になる可能性もあります。そこでAIを利用しようと思っても、ノウハウがない状況では競合優位性を獲得するのは難しいでしょう。

新しい価値観を共有するパートナーを選ぶ

―― 自社だけで取り組むのが難しい場合、外部のパートナーにはどのような企業を選べばいいでしょうか。

 新しい技術に精通していることも重要ですが、それ以上に自社と一緒に新しいビジネスモデルを考えてくれるパートナーが求められます。

 新しいビジネスを考える際、特にベテランの従業員や経営者は、過去に重要だと教えられてきた常識を捨てる覚悟も必要です。昔の考え方に凝り固まっていると、新しい技術やビジネスモデルが出てきたときに、それを過小評価してしまいます。この問題はあらゆる業界で起きてきました。特にインターネットやクラウドの登場で、最初からパラダイムを素直に受け入れた人と過小評価していた人では、その後の伸びのスケールが桁違いになることも少なくないのです。

 すでに、1990年代後半に生まれた人が企業に新人として入社する時代です。彼ら、彼女らにとっては、生まれたときからインターネットが存在し、インターネット以前のビジネスが次々と破壊されていく中で成長し、この時代を生きるための価値観を身に付けてきています。その人たちに旧来の変わらない価値観を押し付けたら、能力を全く生かすことができないでしょう。

 従業員だけでなく、商売をしている消費者、取引先の企業も世代が変わっています。そういう人たちを引きつけるには、新しい世代の価値観を尊重し、生かせる組織に変わっていかなければいけません。「10年後に社会はどうなっているのか」ということに敏感な人がビジネスパートナーにいるといいと思います。企業側もパートナーが注目してくれるようなアピールをすべきでしょう。

 5GやAIで起こる変化は、インターネットの黎明(れいめい)期に起きたような爆発的なものにはならないかもしれません。先ほど述べたように、技術を利用するだけでは実装できないこともはっきりしてきたためです。そこをつなぐ人の知恵は不可欠で、各業界の課題を把握し、いかに技術で解決を図っていくか考えていかなければなりません。当然、目の前にある問題や課題に一つずつ取り組んでいく必要があります。

 ですが、人が介入して知恵を絞りながら新しい技術を導入してビジネスモデルをつくり上げたとき、それは他社にとって大きな参入障壁になるでしょう。すぐ実装できるわけではないので、競争優位性も得られるはずです。

―― 最後に、中小企業が先端技術にどう向き合えばいいかをあらためてお聞かせください。

 冒頭で、5Gの主戦場はローカル5Gだと話しました。これはつまり、自社のビジネスの現場を変革することに他なりません。変革に関して悩むことがあれば必要に応じてITのアドバイザーに相談してみるのも効果的だと思います。

 重要なのは、技術に使われるようにはならないことです。「現場の力で、技術を進化させていく」くらいの気概が必要です。経営者は、「当社は業務課題をこう解決するために、技術をこう使っていく」と宣言するリーダーシップが求められています。それができれば、次の景色が見えてくると思います。

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アイティメディア営業企画
制作:アイティメディア編集局
この記事はTechTargetジャパン(https://techtarget.itmedia.co.jp/)に2021年2月に掲載された
コンテンツを転載したものです。
https://members.techtarget.itmedia.co.jp/tt/members/2102/01/news04.html

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