コロナ禍の影響でテレワークは当たり前の選択肢になった。だが、ただテレワークができるだけでは通常業務を無理なくこなすのは難しい。GMOの熊谷氏に「テレワークを通常業務にする方法」を聞いた。

世界を襲った新型コロナウイルス感染症(以下、コロナと略)は社会の在り方、企業の在り方、ビジネスの在り方を大きく変えた。ネガティブな影響が大半を占めたが、ビジネスや市場の変化を冷静に予測し、次の成長に向けて前を向いた企業も少なくない。GMOインターネットグループもそのうちの一つだ。

 同グループはいち早くテレワークへの大規模な移行を決断し、驚きをもって受け止められた。しかし、その後さまざまな企業がテレワークを迫られるようになり、同グループの判断の先見性が証明された。

 本稿では、GMOインターネット 代表取締役会長兼社長 グループ代表の熊谷正寿氏にインタビュー。コロナ後の働き方やオフィスの在り方、デル・テクノロジーズのクライアントPC「Dell New XPS 13」をはじめとする中小企業のIT活用について聞いた。

周到な準備の下「最速テレワーク」を実施

――GMOインターネットグループはコロナ対策として、国内の大手企業ではいち早く2020年1月末の時点で従業員の大半のテレワークを開始しました。改めて、その決断の背景をお聞かせください。

今回の取材もリモートで実施した

 熊谷氏 ビジネスにインターネットは不可欠なインフラとなっています。当社はお客さまにインターネットサービスを提供する企業として、当社自身が事業を継続できなければお客さまのビジネスも止まってしまうと認識しています。その考えで、10年ほど前からテレワークを含めた事業継続の体制づくりを進めています。テレワークに関しては、毎年全社的に震災訓練の一環として在宅勤務訓練を続けてきました。

 当社は、2020年1月16日に日本国内で最初のコロナ感染者が確認されたときに社内に災害対策本部を発足させ、独自の情報収集と対応準備を開始しました。その後、日本でも感染の拡大は不可避との判断から、1月27日から東京、大阪、福岡の拠点に勤務する国内従業員の約9割に当たる4000人を原則テレワークとしました。

 この決定を公表した1月26日の時点では、国内で感染が確認されたのはわずか4人でした。大手企業でそのような対応を取っていた企業は極めて珍しい状況でしたが、大切な従業員(パートナー)と取引先の人命を守ること、顧客に対してビジネスを停止させないことを第一に決断しました。

 1月末時点での原則テレワークの表明に、メディアからは「早過ぎる」「過剰反応」というご意見も多くいただきました。ですが結果的には、ご存じの通り全国的にテレワークが実施されることとなりました。いち早く対応できたことは、私たちが長年続けてきた事業継続計画(BCP)の整備と訓練の成果だと考えています。

 テレワークは3月に原則全パートナーに拡大しました。その後の感染状況の変化を見て、緊急事態宣言が解除された5月末からはニューノーマルに対応すべく、出社勤務とテレワークを組み合わせた業務態勢に移行しています。

テレワーク実施後のオフィス(提供:GMOインターネット)

インターネットサービスという業種の特性もありますが、テレワークに移行した後も事業には一切影響が出ていません。コロナ以降、2回決算発表をしましたが、いずれも過去最高の業績をマークしてします。インターネット事業を開始して25年間、粛々とお客さまに提供してきたサービスを受け入れていただき、さらに求められる存在になれたと感じています。

 コロナを機に、世の中のIT化、デジタルトランスフォーメーション(DX)化が一気に進みました。この「進化圧」をしっかり認識しなければいけないと思っています。

 実は私は、この進化圧は5Gの浸透によって訪れると想定していました。2020年の年頭あいさつでパートナーに対して「5GがDXを加速するきっかけになる」とスピーチしたのですが、その直後に発生したコロナが5Gを待たずに引き金を引いてしまったのです。

テレワークは「通常業務」に

――テレワークの期間、パートナーに対してアンケートを実施しています。その結果をどう感じましたか。

熊谷氏 アンケートはテレワーク開始直後と約1カ月後に実施しています。業務に関して大きな問題が発生していなかったことは、それまでの準備の成果だと認識しています。一方で、「寂しい」と感じるパートナーの多さが分かりました。同様に、会社に来たいと思っているという意見も散見されました。特に、独身のパートナーにその傾向が強く見られ、1人で黙々と働くことには問題があると分かりました。そのため、非公式なオンラインの会合や飲み会の場を設けるなどさまざまな対応をして、「コミュニケーションの貯金」を増やす努力をしています。

 また、当社は業務の生産性を常に意識しています。調べると、テレワークの方がむしろ生産性の上がった部署が多くありました。働く環境としても、当初は自宅にテレワーク環境が整っていなかったパートナーもいましたが、会社と二人三脚で対策、整備に取り組んでいます。最近では、テレワークだから何か支障があるという声はほとんど聞かれなくなり、当たり前のことになっています。パートナー全体のQoL(Quality of Life)も向上していると認識しています。これがゆくゆくはリゾートワークにもつながっていくのだろうと感じています。

 業務による対応の差ですが、テレワーク開始当初は、2つだけ対応しづらい業務がありました。一つはコールセンターで、契約上自宅での対応ができないという業務がありました。現在は、契約先と交渉を続けながら改善に向けた取り組みを進めています。

 もう一つは、訪問型の営業です。当初はどうしてもテレワークになじみにくい仕事でした。これは当社が世の中で真っ先に全面テレワークに移行したため、他社がそれに対応していなかったことが理由に挙げられます。しかし緊急事態宣言以降、日本全国の企業がテレワークを導入したため、逆に訪問先の企業から打ち合わせなどを「オンラインでやりたい」と言われるようになりました。

「オフィス不要論」は行き過ぎだ

――今後の働き方はどのように変わると思いますか。

熊谷氏 アフターコロナまで分からないというのが正直なところですが、私の考えは極端にテレワークに偏る、または元の出社前提に戻るという二元論ではないと思っています。最終的には、オフィスワークのいいところを引き出しつつテレワークのメリットを活用して、両者のバランスが一番取れたところに着地すると考えています。

 今、「オフィス不要論」が話題となっています。オフィスを解約する企業まで出てきていますが、それはちょっと違うな、と思っています。

 私は、ビジネスという言葉は「仕事」や「商売」ではなく、「戦(いくさ)」だと思っています。オフィスの役割はただの事務所でなく、戦いのための武器だということです。建築というものは歴史的に見ても、4000年前のピラミッドに始まり、400年前の江戸城もそうですが、ただ居場所として使うだけでなく権威の象徴でもあるのです。そういう意味でのオフィスは残るでしょうし、信頼の証しとしての建物はこれからも必要だと考えています。

 例えば価格、機能が同じ製品やサービスを提供する企業が2つあったとき、住所を調べたら一方は知らない土地の何もないところで、もう一方は都心の駅前に本社があるとします。そのときに顧客はどちらの製品を選ぶでしょうか。3年、5年とたつうちにどちらが信頼を勝ち取るかというと、私は後者に軍配が上がると思っています。

 特に私たちが提供しているインターネットサービスや銀行、証券、暗号資産などの目に見えないデジタルプロダクトの場合、企業自体の信頼度はとても重要だと思っています。そういう意味において、オフィスは不要にはならないと考えています。仕事の場としても、オフィスワークとテレワークがいいバランスで残っていくとみています。

経営を仕組みに落とすためには?

――従業員が100人ほどの中小企業ではテレワークが難しいという調査結果もあります。どう対応すればよいでしょうか。

熊谷氏 どの企業も最初は1人からスタートするわけです。当社も25年前に私1人で創業しました。

 100人という従業員数は、よくいわれる「3桁の壁」に直面するタイミングです。従業員が100人以下なら、社長が従業員全員の顔と名前、キャリアや働きぶりなどを頭の中で把握できるものですが、100人を超えるとそうはいかず、組織のマネジメントを「仕組み化」していく必要が出てきます。

 私自身もこれまでグループを拡大する中で、この100人の壁を経験し、乗り越えてきました。その後グループ全体のパートナー数が1000人を超え、現在は約6000人となり、グループ10社が株式上場もしています。それができたのも仕組みがあったからです。この先、パートナーが1万人になっても会社の運営はほとんど変わらないでしょう。仕組みがあれば、企業はスケールできるのです。

 つまり、パートナー数が少ないうちに「経営を仕組みに落としていく」という視点を持ち、仕組みをつくり上げなければいけません。100人規模の企業は、その大事なステージに立っているということです。

 では、どうやって仕組み化していくのかですが、技術というより、まず組織運営を仕組み化することが必要です。経営者自身が技術に詳しい必要はありません。いい仕組みをつくることで、高い技術力を持ったエンジニアも自然と寄ってきます。「いい人が集まる会社の仕組みをつくる」ことが大事なのです。

 私も創業当初は自分でプログラミングもしましたが、高い技術力を持つエンジニアとは比べものにならないレベルでした。ただ、エンジニアの気持ちが分かればそれで経営は十分できます。後は、優秀な技術者が集まる仕組みをつくればいいのです。

 社内だけでなく、どういう企業を外部パートナーとして選ぶのかもとても重要です。ITについても、SIerの一部には自社の利益を最優先に押し出してくるところが少なくありません。

 そういう会社と付き合うと、特に中小企業の場合は苦しい局面を迎えることとなるでしょう。なぜかというと、今のITはリリースしてからの運用でいかに改善していくかが勝負だからです。動きだしてから出てくるさまざまな課題を、親身になって解決してくれる相手を見つけることが必要です。

インターネットは産業革命 革命の武器なしに企業は生き残れない

――ITに不案内なままこれまで経営してきた中小企業の経営者に、どんなアドバイスがありますか。

熊谷氏 現在のインターネット革命が産業革命であることは、もう疑う余地がありません。過去の産業革命の歴史を振り返ってみると、平均して55年間続いています。

 では、インターネット革命はいつ始まったのでしょうか。それは1995年の「Microsoft Windows 95」の登場からです。そこから55年間と考えると、2020年の現在は折り返し地点です。インターネット革命は、あと30年続くのではないでしょうか。革命の前半は「IT企業」「非IT企業」という分かれ方をしました。ですがここからの後半戦は、この分類は無意味になり、全ての企業がIT化していきます。

 産業革命で世の中が変わったときに、その技術を使っていなければ生き残ることができません。前の産業革命で自動車が普及し、産業革命前の交通インフラだった馬車を使っている人が消えたのと同じで、これからはITを使わないと競合他社に生産性が追い付けなくなります。好き嫌いにかかわらず、ITを武器にしていかなければいけないのです。

 ITを武器として取り入れることを真剣に考える、マインドチェンジをしなければいけません。これは全ての企業の経営者に必要な考え方です。

 今の状況をコロナのせいにして嘆いている経営者もいらっしゃると思いますが、「災い転じて福となす」と考えなければいけません。こういうときに不幸だと思うのか、チャンスだと思えるかで、後々大きく変わります。

 ビジネスは戦なので、ポジティブな方向にマインドを持っていき、勝たなければいけません。そのためには、繰り返しになりますが社内にはいい人が集まる仕組みをつくること、そして社外には、長期的な関係を築けるパートナーを持つことが必要です。

※本稿は、2020年9月30日に公開した記事を一部変更して再掲載したものです。

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アイティメディア営業企画
制作:アイティメディア編集局
この記事はTechTargetジャパン(https://techtarget.itmedia.co.jp/)に2021年2月に掲載された
コンテンツを転載したものです。
https://members.techtarget.itmedia.co.jp/tt/members/2102/01/news05.html

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